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岩国市長「国の番だ」 艦載機移転伝達 安全・振興策実現迫る

 岩国市の米海兵隊岩国基地への空母艦載機移転計画で国は20日、市や山口県などに移転時期や機数などを伝えた。容認判断をしていない状況で、矢継ぎ早に示される具体的なスケジュール。地元自治体は騒音や事故の危険性など迫る負担に直面しながらも、安全面の担保や財政支援拡充の実現を重ねて訴えた。

 「われわれはこれまで何度も政治判断をしている。今度は国の番。目に見える形で対応願いたい」。市役所を訪れた岸信夫外務副大臣を前に、福田良彦市長は新たな言い回しで国に「政治判断」を迫った。

 住宅防音工事区域の拡大や同市の岩国南バイパスの南伸、岩国医療センター跡地整備など、これまで国に求めてきた安全対策や振興策を具体的に列挙。さらには、子育て支援策として小中学校の給食費無料化も検討していると明かし、明確に財源措置を求めた。

 「基地を抱えていても日本でいちばん住みよいまちをつくろうとやっている。何もなければ、市民に言い訳ができない」。同席した市議会の桑原敏幸議長の発言には、市民が国防に可能な限り協力しているという自負もにじんだ。市議会は、国の説明を聞く全員協議会を27日に開く方針だ。

 岸副大臣はこうした要請に理解を示し、「他省庁にまたがることだが、政府を挙げて誠意を持って早急に取り組みがなされるよう、できることはすべて行う」と明言。これまでにない踏み込んだ表現で応じた。

 一方、県庁で国の説明を聞いた周防大島町の椎木巧町長は、国が示した新たな騒音予測図を見て「びっくりしている」と驚きを隠さなかった。島の一部に、W値(うるささ指数)が70以上の区域が広がることが分かり、「たいへん懸念している」と不安を吐露した。

 市と県は今後、騒音予測図などを精査し、今回の説明に対する疑問点を文書で国に照会する考え。移転による住民生活への影響をあらためて確認する。(野田華奈子、村田拓也)

【艦載機の岩国移転を巡る主な動き】

2006年 5月 日米両政府が神奈川・厚木基地の空母艦載機移転を含む在日          米軍再編最終報告に合意
  08年10月 岩国市の福田良彦市長が安心・安全対策と、海上自衛隊航空          機部隊を岩国に残すよう求める要望書を国に提出
  09年 3月 福田市長が幹線道路網整備など地域振興策への協力を国に要          望
  10年 5月 約1キロ沖合へ移設した米海兵隊岩国基地の新滑走路運用開          始
  12年 3月 山口県住宅供給公社と国による愛宕山地域開発事業跡地の売          買契約が成立
     12月 国内2カ所目となる軍民共用の岩国錦帯橋空港が開港
  13年 1月 国が艦載機移転時期について、3年程度遅れ17年ごろにな          る見込みと県と市に伝達
     12月 県と市はKC130空中給油機の岩国基地への移転を容認す          る考えを国に伝達
  14年 5月 愛宕山で米軍施設整備開始
      8月 岩国基地は、米軍普天間飛行場(沖縄県)からKC130          (15機)の移転が完了したと発表
  17年 1月 在日米海軍司令部が、艦載機移転は「ことし後半に開始され          る予定」と発表

【解説】明らかに「外堀」埋まる

 20日、国が説明した米空母艦載機移転計画の概要は、基地機能の実質的な拡大と騒音などの負担の現実を地元自治体にあらためて突き付けた。岩国基地に関わる在日米軍再編計画の柱だ。

 2006年、日米両政府は艦載機移転を含む再編計画に合意した。岩国市民の賛否は割れ、移転に反対した井原勝介前市長に対して国は市庁舎建設の補助金を凍結。08年2月の市長選では、再編に協力姿勢を示す現市長の福田良彦氏が井原氏を破って当選した。

 米軍再編交付金を手にした市政は、国や米軍との協調路線に大きくかじを切り、選挙結果が「事実上の移転容認」とする市民の声は少なくない。移転を踏まえた愛宕山地区での米軍施設整備も進む。

 明らかに外堀は埋められている。だが、市と県の最終的な容認判断はこれからだ。福田市長は、将来的な艦載機移転を想定して国に要望した43項目の安心安全対策と地域振興策の進展を、判断材料の一つに挙げる。この日、移転時期を伝えた岸信夫外務副大臣に対し、複数の具体的な事業名を挙げて実現を訴えた。

 地元自治体や住民の切迫感は基地負担の大きさの裏返しであり、日米合意がその対策なしに現実化することへの焦りにも見える。地方自治体として市民の目線に立ち、移転が本当にどれだけの影響を及ぼすのかを熟慮するべきだ。「判断ありき」の姿勢では、市の歴史に禍根を残す。(野田華奈子)

(2017年1月21日朝刊掲載)

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