×

社説・コラム

社説 米国防長官来日 同盟の意味 見つめ直せ

 外国閣僚の「表敬」としては異例の約50分に及んだ。きのう来日したマティス米国防長官が官邸で安倍晋三首相と安全保障問題を話し合った。

 トランプ新政権の閣僚としては初の来日である。異例の厚遇は国防長官が日本の安全保障を左右するキーパーソンと考えてのことだろう。トランプ大統領の言動が世界に波紋を起こしているだけに、日本政府は神経をとがらせていたに違いない。

 大統領選中、トランプ氏が軍事面でも日米関係の現状に不満をあらわにし、在日米軍の基地負担を含めた在り方の見直しに言及していたからだ。

 きのうの会談で、首相らも安堵(あんど)したことだろう。何より米軍の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が尖閣諸島にもこれまで通り適用されると、マティス長官から言質を取れた点である。

 さらに沖縄の米軍普天間飛行場の移転を巡り、名護市辺野古沖への移設が「唯一の解決策」という認識を長官が示したのも日本政府の思惑通りだろう。

 マティス長官は元軍高官で新大統領の信頼も厚い。同じく同盟国である韓国に続く日本派遣によってトランプ氏の過去の発言をある意味、軌道修正する狙いがあったとの見方もできる。

 首相も会談で揺るぎない日米関係を強調し、友好ムードを演出した。経済分野で早くも露呈した日米の隙間風が、中国や北朝鮮への対応に波及することは何とか避けられた格好だ。

 米国にとっても、軍事的な喫緊の課題は北朝鮮政策だろう。北朝鮮では大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が進んでいる。マティス長官は韓国国防相との会談で、オバマ政権時代の計画に沿ってミサイル防衛を強化することで合意した。

 ただ日米韓の枠組みが維持されることだけをもって、手放しで喜んでいいのだろうか。

 きのうの会談ではかねてトランプ氏が要求し、日本が受け入れられないとする在日米軍駐留経費の負担増について、マティス長官は言及しなかった。だからといってこの問題を封印したとみるのは早計だろう。それに限らず、日米同盟に関わる日本の負担と役割の強化を求めてくることは十分あり得る。

 米国の政権交代を機に、日本としても同盟関係の意味自体から見つめ直すべきではないか。いわばトランプ氏の動きを先取りする形で政府・与党からは防衛力強化を口にする動きがあるが、決してそうではない。

 沖縄県では辺野古移設にとどまらず、過重な基地負担への反発が高まっている。両政府は同盟堅持ありきで、県民の求める真の負担軽減や日米地位協定の抜本改正から目を背けてはならない。マティス長官来日と同じタイミングで翁長雄志(おなが・たけし)知事が米ワシントンで「辺野古移設」反対を訴える講演をしたのも民意とのずれを象徴する。

 核兵器についても同じようなことがいえる。日本は被爆国でありながら米国の「核の傘」の維持を求めている。トランプ氏の核兵器に対するスタンスはまだ見えないが、今のように米国の顔色をうかがう姿勢だけなら被爆地の願いとの落差は広がるばかりだろう。10日には日米首脳会談もある。単なる対米追従では真の同盟関係は築けないことを忘れないでもらいたい。

(2017年2月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ