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Peace Seeds ヒロシマの10代がまく種(第41号) シリアの子どもたち

過酷な避難生活 夢や希望描けず

 シリアで、強圧的なアサド政権に対する反政府デモが始まって3月で6年になります。現在、国民の約半分の人が家を追われ、約630万人が国内に、約490万人がトルコやレバノン、ヨルダンなど国外に避難しています。これは、中四国9県の人口を合わせた数とほぼ同じです。欧州に逃げている人もいます。

 そして、避難(ひなん)者の半数が子どもたち。大勢が不便なだけでなく貧困生活を強いられています。満足に学校に行けないのに加え、精神的にも不安定になり、将来への夢や希望を見いだせずにいます。

 私たちジュニアライターは、現地の人たちに子どもの様子を聞きました。同世代の子どもたちの、想像をはるかに超(こ)える過酷な現状に言葉を失いました。

 広島でシリアの支援(しえん)活動をしている人にも取材。私たちがすぐにできることを見つけました。一緒(いっしょ)に始めませんか。

<ピース・シーズ>
 平和や命の大切さをいろんな視点から捉(とら)え、広げていく「種」が「ピース・シーズ」です。世界中に笑顔の花をたくさん咲かせるため、中学1年から高校3年までの30人が、自らテーマを考え、取材し、執筆しています。

紙面イメージはこちら

不十分な教育環境 ヨルダン難民キャンプ

 シリア難民8万人が暮らすヨルダン北部のザータリ難民キャンプ。男性教諭(きょうゆ)(33)が教える中学・高校では、午前が女子、午後は男子の授業があります。一つの教室に110人もの生徒が入ることもあります。授業は1こま35分。休憩(きゅうけい)はなく授業は計約3時間続きます。教諭は「授業に集中できない状態」と言います。

 シリアで学校に通ったことがある子どもは比較的(ひかくてき)まじめに勉強しますが、キャンプで初めて学校に行く子どもは、あまり勉強に興味を持っていないそうです。「親が子どもをケアできていないからではないか。先生を尊敬しようとしない傾向(けいこう)もある」と教諭。家に電気が時々しか来なくて勉強しにくい環境(かんきょう)もあります。

 さらにキャンプには大学がありません。進学しようとしても、ヨルダン政府や国連から奨学(しょうがく)金がもらえる一握(にぎ)りの人しか大学に行けないのです。仕事もなく、シリアにも戻(もど)れず、将来について考えられません。文房具(ぶんぼうぐ)は国連からもらえ、教科書もありますが、地図や標本などの副教材がなくて困っているそうです。(中2伊藤淳仁)

水・電気制限 心に負担 国内

 学校の先生をしている女性(42)は、高校3年と中学2年の息子と、2013年からシリア南部の安全な場所に避難(ひなん)しています。しかし、そこでは水や電気が5時間おきに1時間しか使えません。ニュースを見て必要な情報を得ることも難しく、砂漠地帯で暑い夏でもクーラーも扇風機(せんぷうき)も使えません。また物価が高騰(こうとう)しており、特に石油は高価で冬でも満足に暖を取れません。

 内戦前は普通(ふつう)に使えていた電気。不便な暮らしに加え、自宅にも戻(もど)れず、家族はイライラが募(つの)り、ストレスが大きくなっています。

 2人の息子は内戦が始まってから、ささいな事に恐(おそ)れたり心配したりするようになっています。学校は普通にありますが、子どもたちには将来が見えません。大学には行けますが、夢や希望を描(えが)きにくいのです。やる気を持てない状況(じょうきょう)です。(中3岡田日菜子)

言語の違いや差別に苦労 トルコ

 IT関連の仕事をしている男性(35)は2012年にシリアのダマスカスからトルコのアンカラへ避難(ひなん)しました。

 現地での暮らしは、トルコ語とアラビア語での言語の違(ちが)いや差別などの苦労があります。特に、小学1年の娘(6)が気がかりです。保育園では「言語が違う上にシリア人ということで、同じ扱(あつか)いをされなかった」と言います。小学校は、米国のオンライン学校に入り、自宅のインターネットで授業を受けています。

 トルコでは、シリア人を見下すトルコ人が以前より増えており、男性はチャンスがあれば別の国に移住したいそうです。ただ欧米(おうべい)は移民の受け入れが厳しく、差別もあります。男性は、先の読めない今の状況(じょうきょう)に不安を感じています。(高3新本悠花)

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私たちがすぐにできることは

支援物資集め現地へ 廿日市の日本シリア連帯協会

 シリアの人たちを支えよう、と日本シリア連帯協会(廿日市(はつかいち)市)は2012年に設立されました。13年から冬服やランドセル、文房具(ぶんぼうぐ)を集めて送っています。病院で不用になったベッドを格安で譲(ゆず)り受(う)け、送ったこともあります。シリア出身の代表アブドゥーラ・バセムさん(49)=同市=は「自宅が危険、と逃(に)げた人が集まって自然にできた『キャンプ』がたくさんある。そこには何もない」と現状を説明します。

 物資はコンテナに入れ、船で運びます。約1カ月かけてトルコに到着(とうちゃく)した後は、アブドゥーラさんの知人や支援(しえん)団体が国内外の避難(ひなん)者に届けます。

 「みんなの気持ちが詰(つ)まっているから、信頼(しんらい)できる相手団体にしか送らない」とアブドゥーラさん。「日本人が捨てる物でも、困っているシリア人には必要な物。捨てずに寄贈(きぞう)してほしい」と話します。米や乾燥(かんそう)した豆類、靴(くつ)など日常生活に使えそうな品があれば相談してほしいそうです。同協会Tel090(2852)7696。(中3鬼頭里歩)

教育受けられない国に未来はない アブドゥーラ代表

 シリア出身で日本に来て約22年になるアブドゥーラ・バセムさん=写真=は「避難(ひなん)者の中には、弱い立場の子どもたちがたくさんいます。彼らは戦争に関係がありません。責任もありません」と強調します。

 内戦前は識字率が高く、大学まで授業料無料の国でした。しかし、内戦が始まり百八十度変わりました。避難している子どもたちは、満足に教育を受けられません。アブドゥーラさんは「子どもが教育を受けられないと、国の未来はない」と言います。

 アブドゥーラさんは、今のシリアを「人がいない、石だけがある場所」と言います。多くの建物が破壊(はかい)されました。家族や親戚(しんせき)、友人は避難していてほとんどいません。古里がなくなったのです。行政もうまく機能しておらず、多くの人は自分の身元を証明できません。「動物同然です」

 子どもたちは教育を受ける、という当たり前の権利どころか、頼(たよ)れるはずの親も安定した生活を送れていません。アブドゥーラさんは「将来シリアに戻(もど)れたら、子どもたちの教育と国の再建、二つの面から支援(しえん)をしたい」と考えています。(高1上岡弘実)

シリア情勢
 中東民主化運動「アラブの春」の反政府デモがシリアにも波及(はきゅう)。シリア政府軍と反政府武装勢力との争いに、過激派組織「イスラム国」(IS)も加わり、戦闘(せんとう)が激化。一般(いっぱん)の市民への人権侵害(しんがい)が続いている。

(2017年2月16日朝刊掲載)

【編集後記】
 アブドゥーラさんの活動を知った時、まず、広島から支援物資を送っている人がいる、ということに驚きました。シリアは、私にとってはテレビの向こうの遠い場所で、今回取材したいと思ったのも、その距離を越えて、シリアの現状を知りたいと思ったからでした。まさか、実際に支援している、しかも以前のシリアを知っている人の話を聞けるとは思っていませんでした。

 アブドゥーラさんに会って、一番私の心に残ったのは、今のシリアは「人がいない、石だけがある場所」という言葉です。思い出の場所や実家、いるはずの家族や友達がいない今のシリアは、アブドゥーラさんにはなじみある古里と思えないのは、苦しいだろうなと思いました。

 私は、シリアは遠く離れた場所で、支援できることはないと思っていました。しかし、アブドゥーラさんと会ったことによって、自分にできることを探してみたいと思いました。(上岡)

 今回初めてシリアでの暮らしを聞きました。日本で難民に会わないせいか、シリアで起きていることに現実味を持っていませんでした。米国や欧州が難民受け入れに否定的な立場をとることで、最新の教育を子供たちが受けることができない点が最も悲しいことでした。八方ふさがりの状況でも教育を受けさせようとする親の姿に感動しました。(新本)

 アブドゥーラさんに取材に行く前は、シリアに使用済みの物を送るのは失礼ではないかと、思っていました。ですが、取材を通してシリアの人々が本当に支援を必要としていることを知り、積極的に支援に参加したいと思いました。(鬼頭)

 僕はシリア人の家に行くまでとても緊張していました。外国人に取材をするのは初めてだったからです。ですが、いざ着くと、雪の中を外で僕たちを待っていてくれて、なんだか安心しました。また取材の時にも、質問すると外国にいる人に聞いたり、自分のシリアに居た頃の話を交えたりして丁寧に説明してくれました。最後に難民キャンプのビデオを見た時にはすっかり緊張が解け、互いに誠意を込めて話をしたら伝わるのだとあらためて感じました。(伊藤)

 シリアでは、学校に行けていても将来に希望が持てずに常に不安を抱えて生活している人がいます。このような現状をもっと多くの人に知ってもらいたいと思いました。(岡田)

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