×

社説・コラム

社説 南スーダン日報 防衛相の答弁おかしい

 稲田朋美防衛相の国会答弁に批判が強まっている。国連平和維持活動(PKO)で陸上自衛隊が派遣されているアフリカ・南スーダンの情勢認識を巡ってのことだ。

 とりわけ「憲法9条上の問題になる言葉を使うべきでないから武力衝突と使っている」という発言は見過ごせない。憲法違反があっても、言葉の上でごまかせばいいとも取れるからだ。

 昨年7月、政府軍と反政府軍が首都ジュバでぶつかり、数日の間に270人以上の死者が出た。それを現地の陸自隊員も目の当たりにした。「戦車や迫撃砲を使用した激しい戦闘」「断続的な射撃」「戦闘への巻き込まれに注意」。事態が悪化すればPKO継続が難しくなるとも感じたという。生々しい日報が先日開示され「戦闘」から半年以上過ぎた今、国会で物議を醸していること自体に違和感を抱く。

 防衛省はこれまで正式な報告書を作成後に日報は廃棄したとして、民間からの公開請求を退けていた。ところが元行政改革担当相の自民党・河野太郎議員の要求で再び調べた結果、電子データが見つかったという。こうした経過からして、隠蔽(いんぺい)だと批判されても仕方あるまい。

 紛争当事者間の停戦合意などを日本政府はPKO参加5原則としている。派遣継続の判断に重大な疑義を生じさせるものだが、当時の政府は違うニュアンスで国会に状況を伝えた。

 当時の中谷元・防衛相は「散発的な発砲事案」と説明し、安倍晋三首相も戦闘行為はなかったとしていた。改正PKO法に基づく「駆け付け警護」の新任務付与が議論されていた時期だった。隊員のリスクが高まると懸念を示す野党をよそに政府は11月に閣議決定に踏み切った。今となっては派遣継続ありきだったのではとも思える。

 今回の問題発覚後の稲田氏の釈明には首をかしげる。防衛省から日報が残っていることや中身を知らされたのは1月下旬だという。菅義偉官房長官は文書管理を巡って「あまりに怠慢だ」と防衛省を叱責(しっせき)する。むろん省側に問題があったにせよ、当時の政府は情勢分析にどこまで真剣だったのか。安易な責任転嫁は許されない。防衛相の責任も当然、問われる話だ。

 それでも「武力衝突」と稲田氏は言を曲げない。根拠は日本政府による戦闘行為の定義だという。「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し、または物を破壊する行為」としているが、自衛隊員が脅威を感じたのは確かだ。

 南スーダンでは「大虐殺が起きる恐れが常に存在する」と最近になっても国連事務総長特別顧問が警告している。防衛省は今後、政府見解に沿い「戦闘」と「武力衝突」を使い分けるという。しかしこれでは正確な情報が上がらないのではないか。

 今回の問題にとどまらない。集団的自衛権の行使を容認した3年前の閣議決定を巡る内閣法制局長官用の想定問答集もそうだ。当初は拒んだが、先月になって一転、開示された。

 共通するのは政府の判断で行政文書の範囲や開示基準が左右されかねないことだ。情報公開法の趣旨は「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進」である。国民の知る権利は憲法が保障する。政府に深く反省を求める。

(2017年2月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ