×

ニュース

モノが語る福島県飯舘の記憶 広島で展示

 並んでいるのは美術作品ではない。広島市中区橋本町、ギャラリー交差611で開かれている「いいたてミュージアム」は、東京電力福島第1原発事故で全村避難を強いられた福島県飯舘村の人たちの記憶を映す、大切な「モノ」を見せている。

 同県内外の支援者でつくる「いいたてまでいの会」が主催し、全国巡回しているプロジェクト。放射線量測定の対象とされた杉材や、自宅周辺の線量を記録し続けた手書きのメモなどが並ぶ。

 無言の展示物に私たちはどう向き合うべきか―。答えを探る「勉強会」が、会場で開かれた。いずれも福島での調査や取材、支援の経験を持つ4人が、この「ミュージアム」の意義や可能性を語り合った。

 「何の変哲もないモノをケースに収め、まなざしを向けさせる試み。好きに見てもらうのではなく、何であるかをきちんと語るのが不可欠だ」。東京大教授(文化資源学)の木下直之さんは指摘した。

 出展品には、村を離れて暮らす人たちへの聞き取りを基に持ち主の言葉も添えられている。

 福島県立博物館館長で学習院大教授の赤坂憲雄さんは、村で風雪から家を守るため、大切にされていた屋敷林「イグネ」について解説。出品された柏(かしわ)の木の落ち葉を例に、除染作業でイグネが切られることに対する人々の心の痛みに触れ、「目に見えない、においもしない原発事故による被害の記憶を伝える小さな証言者」と述べた。

 広島・長崎や福島についての著書がある作家の田口ランディさんは、原発事故後に配られた文書や防護マスクなどを集め、展示している福島県川内村の「感がえる知ろう館」の取り組みを紹介。小さい単位で無理なく資料を残していく重要性を説いた。

 福島を定点観測し、撮影を続ける写真家の土田ヒロミさんは、展示物を「ささいな日常」と表現。「人間の生活はその積み上げ。そこをしっかり捉えることで、いま自分や他人が置かれている状況に迫ることができる」と訴えた。

 展示は26日まで。同ギャラリーTel082(222)2504。(森田裕美)

(2017年2月18日朝刊掲載)

年別アーカイブ