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社説・コラム

社説 日系人強制収容75年 排外主義を繰り返すな

 大統領令9066号―。ルーズベルト氏がその紙に署名をして、きょうで75年となる。

 太平洋戦争の開戦直後、主に米国西部に住んでいた日系人はこの大統領令で「敵性外国人」とされ、11万人以上が内陸や砂漠地帯などの収容所へ送られた。後に不当な人種差別だったとして米政府は謝罪している。

 今なお、この歴史は重い意味を持つ。トランプ大統領が、イスラム圏7カ国からの入国禁止を求めるなど、排外的な動きが広がりつつあるからである。

 かつての日系人の歴史は苦難の連続であったといっていい。

 1924年の排日移民法によって、一部の例外を除いて日本からの移住は全面禁止された。そして真珠湾攻撃後の42年、米政府は多くの日系人を隔離していく。収容所の多くはバラックで衛生状態も悪く、暮らしは過酷であった。米国への忠誠心を証明するため、あえて米兵として志願し、激戦地で命を落とす若者も続出したという。

 戦後も苦労は続いた。多くは収容時に家や土地などの財産を安値で買いたたかれ、元通りの社会的立場に復帰することは容易ではなかったからだ。その後、レーガン政権の88年にようやく、米政府は「重大な誤り」だったとして謝罪した。賠償金の支払いが終了したのは99年である。

 こうした歴史は、自由と民主主義を掲げる米国にとって「恥部」であろう。この経緯をトランプ大統領は知っているのだろうか。イスラム教徒の入国禁止を主張した際、日系人強制収容と「何ら変わりはない」と述べ、正当化するそぶりすら見せている。

 さらに、近くイスラム圏からの入国禁止の復活へ向け、新たな大統領令の発令を準備していると聞く。連邦裁判所が、入国を禁じる大統領令を一時差し止めたことを何とも思わぬような独善ぶりだと言えよう。

 米国は「移民の国」だ。多様な民族や人種の違いによる相克を乗り越え、自由で寛容な社会を築いてきた。社会のダイナミズムを生む根幹が突き崩されようとしていることに今、懸念の声が広がる。

 強制収容に抵抗したことで知られる日系2世、故フレッド・コレマツ氏の功績を再評価する動きが米国で出ているのもその一つだろう。トランプ政権の排外主義への危機感の表れに違いない。

 それなのに、安倍晋三首相の対応はどうか。欧州の多くの首脳が大統領令に反対の立場を表明する中、「コメントする立場にない」と静観を決め込む。米国の顔色をうかがう姿勢であるとしたら、あまりに情けない。

 日系人の苦難の歴史について、私たちの地域でももう一度光を当てたい。明治政府と、当時独立国だったハワイの取り決めで1885年から「官約移民」が始まり、広島県や山口県から数多くの移民を送り出してきた経緯があるからだ。広島市は旧日本銀行広島支店の一部を、海外移民の歴史などを紹介する博物館として活用する方針を固め、2018年度にも開館する計画だ。こうした動きを後押ししたい。

 先人たちの苦難と悲劇を胸に思い起こし、次代につなぐ。これこそが、差別と排外主義を繰り返さぬ鍵に違いない。

(2017年2月19日朝刊掲載)

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