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ヒロシマの絵本 ブラジルで出版 日系2世ナカガワさん 被爆者の証言参考

 ブラジルの子どもたちに原爆の悲惨さを伝えようと、サンパウロ大の研究員クリスチアニ・ナカガワさん(34)=写真・心理学=が、広島の原爆を題材にしたポルトガル語の絵本「アユミ」を出版した。被爆者たちの証言を基に、戦時中の苦しい生活や原爆投下直後の状況を、架空の少女「アユミ」の視点で描いた。同国内で販売されている。

 絵本は縦20センチ、横20センチ、32ページ。焼け野原となった街の様子など10枚の水彩画は、サンパウロ大出身の社会派イラストレーター、ビトール・フリンさん(33)が担当した。読者は10代を想定している。

 物語は、1945年8月6日朝から始まる。広島で暮らす主人公のアユミは、学徒動員先の軍需品工場に向かうため、建物疎開の作業現場を目指す弟キヨシと路面電車に乗る。工場で作業を始めると、突然の閃光(せんこう)―。一面のがれきと化し、火の手が迫る街で、水を求める負傷者たちの声が響く中、弟たちを捜し歩く。自宅は全焼し母、祖父母、妹が犠牲になるとのストーリー。

 日系2世のナカガワさんは2009年と10年の2回、広島市を訪問。被爆証言を聞き取り、過酷な被爆体験の心理面への影響を研究してきた。被爆70年の15年には、ブラジル在住の被爆者3人の手記を収録したポルトガル語の論文集を出版した。今回の絵本は、200人を超す被爆者の証言をヒントに構想、ブラジルの日系人財団の補助金を得て完成した。

 ナカガワさんは「ポルトガル語で書かれた被爆証言は少なく、若い世代にどう伝えていくかが課題。学校などで読んでもらい、次世代への継承につなげていきたい」と話している。(小畑浩)

(2017年2月20日朝刊掲載)

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