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連載・特集

緑地帯 「声」を求めて 藤森晶子 <1>

 15年ほど前の大学時代に研究し始めた題材を、昨年、「丸刈りにされた女たち」(岩波書店)という本にまとめることができた。その題材とは、1944年のフランスで起きた女性への暴力である。

 第2次世界大戦初期、ナチス・ドイツに敗退したフランスには、占領軍が駐留していた。ドイツ兵と現地の人々との接触は必然で、商売などの職業上、兵士の近くにいた女性や、私的に恋愛関係にあった女性がいた。さまざまな関わりがあったにもかかわらず、女性たちはひとくくりに「ドイツ兵と性的関係を持った」とレッテルを貼られ、ナチスからの解放時に、同胞から髪を刈られた。

 彼女たちを捉えた映像を初めて見たのは高校3年の時。広島市内の実家で見ていたドキュメンタリー番組だった。「ドイツ兵と交際があった女性へのリンチ」として、頭皮がむき出しの女性たちが映し出された。おしゃれなイメージで憧れだったフランスで、こんなひどい暴力が起きていた。いくら敵と恋愛したからといって、こんな暴力が許されていいのだろうか。思わず目をそらした。

 彼女たちは私の祖母と同世代である。広島で被爆した祖母にその後の人生が続いているように、この女性たちにも人生があるはずだ。どうやって生きていったのか、本人たちから話を聞かせてもらいたい。大学院に進んだ私は、2004年、ドイツ国境に近いフランス東部の町ストラスブールへ留学することになった。(ふじもり・あきこ 在日外国公館勤務=東京都)

(2017年2月22日朝刊掲載)

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