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連載・特集

被災 フクシマは今

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から間もなく6年。原発の周辺にある福島県双葉郡の町村では、避難指示が徐々に解除されている。今月、日本記者クラブの取材団に加わり、現地を訪れた。原発事故の被災地の今を報告する。(境信重)

避難指示解除

子ども・働き手 帰還進まず

 福島第1原発から北西約25キロの葛尾村の小中学校。震災で傷んだ校舎は改修をほぼ終え、外壁は塗り直されていた。4月には、子どもたちの歓声が響くはずだった。

 葛尾村は昨年6月、帰還困難区域を除き避難指示が解除された。だが戻った住民は震災前の8・8%の118人(1日時点)。村は学校の再開を来年4月に1年延期することにした。

 住民が村に帰らない大きな要因は、生活インフラが整わないことだ。商店の再開は遅れ、診療所は医師を確保するめどが立たない。

 さらに、除染作業で出た廃棄物が至る所に仮置きされ、保護者からは子どもへの影響を心配する声も上がる。村の小中学校と幼稚園に在籍する子ども120人は、避難先で新しい友達と机を並べている。篠木弘村長は「子どもは村の将来を担う宝。でも時間がたつほど村に戻らなくなる」と苦悩をにじませる。

 震災前、約7万4千人だった双葉郡の人口は今、5千人余り。働き手が足りず、産業の復興がままならない町村も目立つ。

 昨年6月に全域で避難区域が解消した川内村。企業を誘致するため工業団地の整備を進めている。しかし7区画のうち分譲が決まったのは2区画だけ。遠藤雄幸村長は「労働力が集まらないことが一因」と語る。

 川内村では避難先の生活に慣れた子育て世代が戻らず、高齢化が色濃くなった。お年寄りだけ帰る場合が多く、65歳以上の高齢化率が40%と震災前より6ポイント上がった。要支援、要介護の認定者は249人(昨年9月時点)で4割増えた。

 「車を運転しない高齢者の通院や買い物をどう支えるかが課題」と遠藤村長。社会福祉協議会に委託して車で無料送迎するサービスを、昨年6月から通院に限り村外にエリアを広げた。

 町村は避難先の住民とのつながりを保とうと努める。浪江町は約1万世帯に広報誌、約7千世帯にタブレット端末を配り、復興の状況や町の情報を届けている。3月の避難指示の解除を見据えるが、昨年9月の調査で「戻りたい」と答えた人は17・5%だった。

 「子どもの教育や仕事の関係で戻らない人が多い。だが皆さんには墓や先祖が残した文化がある」。馬場有(たもつ)町長はいつか帰る人のために「町残し」に力を注ぐ。4月に二本松市の仮事務所から浪江町の本庁に大半の機能と職員を戻し、中心街の整備を進める。

総菜店開業

望郷の味 復興の一助に

 富岡町の複合商業施設「さくらモールとみおか」の一角。きんぴらごぼうやマカロニサラダが並ぶ総菜店「おふくろフード」がある。原発事故で町外に避難している主婦たちが通いながら、作りたてを売る。

 昼時、町の復旧工事に当たる作業員や避難先の住民が訪れる。「しばらく」「どうしてる」。店員との会話に笑みが浮かぶ。

 店員は9人で、ほとんどが60歳以上。リーダーの田中美奈子さん(71)は双葉郡の南に位置する福島県いわき市の自宅を午前6時半ごろに出て、車で1時間半かけて出勤する。「少しでも復興に役立ちたい。みんなで支え合っていければ」

 富岡町は4月に帰還困難区域を除き避難指示が解除されるのを見据え、福島第1原発の南約10キロの場所にさくらモールを整備。昨年11月の一部開業を機に、おふくろフードも開店した。

 オーナーは建設会社を営む渡辺正義さん(65)。「住民が帰る雰囲気をつくりたい。地元のお母さんが作った総菜を食べれば懐かしい気持ちになる」。知人の田中さんに呼び掛け、仲間を集めてもらった。販売量が少なく赤字というが、「心に重荷を抱えて家の片付けに戻る人が、ここで顔見知りと言葉を交わせば、元気になる」と力を込める。

Jヴィレッジ再開へ

サッカーで元気再び

 かつてサッカーの日本代表チームが練習した芝生のピッチは、茶色い土の地面に一変していた。その上をショベルカーが行き交う。

 福島第1原発から南に約20キロ離れたJヴィレッジ。作業員が原発事故の処理に向かう前線基地だったが、昨年11月、その役目を終えた。現在、本来のサッカー施設に戻すため東電が工事を進めている。来年夏に一部再開し、2019年4月から全面営業する計画だ。

 事故後、ピッチは駐車場になり、東電の社員寮が建った。雨水を逃がす地下の排水管は重機の重みでつぶれた。地面を掘り、新しい管を設置する作業が続く。

 震災前は多くの全国大会が開かれ、年間50万人が訪れて地域の経済が潤った。施設を運営する日本フットボールヴィレッジの小野俊介取締役統括部長は「再びサッカーができるようにして、福島県を元気にしたい」と語る。

(2017年2月22日セレクト掲載)

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