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連載・特集

緑地帯 「声」を求めて 藤森晶子 <3>

 「丸刈りにされた女たち」に関する調査を終え、留学先のフランスから帰国して何年かたったある日のことである。

 久々にログインした会員制交流サイト(SNS)に、知らないフランス人男性からのメッセージがたまっていた。読むと、「おばあさんに会いにきた人物か」と尋ねている。現地で会った「女たち」の一人、セシルさんの孫からのメールであった。

 セシルさんは、結婚と離婚を繰り返していて、確か家族はいなかったはずだ。でもいたのである。孫は1度目の結婚で授かった息子の子どもだった。息子もその妻も謎の死を遂げたらしく、孫の存在は、セシルさんに知らされていなかったという。その孫が10年以上かけて祖母を捜し当て、私の帰国後に再会を果たしていたのだ。

 戦時中の駐留ドイツ兵との恋が成就しなかったことが「人生のつまずき」の出発点となり、その後の人生を「不運」「孤独」と嘆いていたセシルさん。孫との出会いはどんなにドラマチックで幸福な出来事であったろう。彼女は孫に、自分を訪ねてきた日本人がいたことを話し、孫がSNSで私を見つけ出してくれたのだ。研究のための取材対象であった彼女の人生の一部に自分が組み入れてもらえたことがうれしかった。

 しかし、私に託してくれた「丸刈り」に関する過去について、孫に話しているかは確信がなかった。「広島のことで会いに来た」と伝えているようだったからである。彼女に会った本当の理由を、孫には話してはならないと察した。(在日外国公館勤務=東京都)

(2017年2月24日朝刊掲載)

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