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社説・コラム

社説 嘉手納爆音訴訟判決 違法状態 放置許されぬ

 いつまで続くのだろう。沖縄・米軍嘉手納基地の米軍機を巡る第3次爆音訴訟の判決が出た。那覇地裁沖縄支部は約301億円の損害賠償を国に命じたものの、最大の焦点で基地周辺住民の悲願といえる、飛行差し止め請求はまたも却下された。

 約2万2千人の原告は早朝や夜間の爆音で睡眠妨害や聴覚障害が生じ、憲法が保障する平穏な生活が侵害されていると主張した。判決文には確かに住民の胸の内をくんだ言葉も並ぶ。

 「戦争時の記憶をよみがえらせる」爆音だとし、受忍限度を超える違法な権利侵害と断じた。そうまで言っておきながら司法が原因除去に踏み込まなかったのは残念でならない。

 ある意味、予想できた判決でもあった。「日本政府は米軍機の運航を制限できる立場にない」「支配の及ばない第三者の行為」。判決の核心ともいえるこの部分は、過去の最高裁の判断基準を踏襲しているのは明らかだ。現に、各地の騒音訴訟でも賠償だけでお茶を濁すのがパターン化している。かくも長きにわたって、司法が思考停止に陥っていていいのだろうか。

 嘉手納訴訟は35年前、約900人の原告団で始まった。2次で5500人に増え、今回は過去の提訴に参加した住民も含めついに2万人を超えた。騒音被害がより深刻になっている証拠ともいえる。何度も法廷闘争に打って出るしかない、住民の悲壮感をくみ取るべきだ。

 賠償額は神奈川・厚木基地第4次訴訟の82億円を大きく上回った。今回の嘉手納を巡っては騒音の程度を示す「うるささ指数(W値)」を当てはめ、額を五つに分けた。最もひどいW95の住民には月3万5千円、W75だと7千円…。従来の基準より大幅増となったが、対象は過去の損害分に限る。住民は今後も、受けた損害に対して提訴を重ねるしかないのだろうか。

 住民側は判決を不服として控訴する構えを見せている。決してお金だけの問題ではない。真に求めているのは「静かな夜」である。

 嘉手納判決を受け、気掛かりなのは米海兵隊岩国基地のことだ。厚木基地からの空母艦載機部隊の移転で嘉手納を上回る規模になる。先ごろ国が示した騒音予想図には驚かされた。

 W値75以上のエリアが3割増え、W値70以上は周防大島や県境を越え宮島、能美島の方向にも広がる。国は、岩国市が求めるバイパス延伸や小中学校の給食無料化などに応じる意向を示している。「条件闘争」だけでなく、騒音や治安に対する住民の懸念にも目を向けたい。

 一連の騒音訴訟で問われているのは日米両政府の責任だ。もともと嘉手納基地は1996年、夜間や早朝の飛行制限を両政府で合意していた。それが守られておらず、今回の判決も「違法状態を漫然と放置している」と両政府の不作為を非難した。

 判決を受け菅義偉官房長官は「可能な限りの配慮を米軍に申し入れる」としたが、断固たる姿勢で米軍に協定順守を申し入れるべきだ。かねて政府が口にする「沖縄の基地負担軽減」の姿勢が問われている。

 先の日米首脳会談では、双方とも「蜜月」をことさらアピールした。本当に何でも言い合える関係なら、最低でもまず飛行制限から実現してもらいたい。

(2017年2月25日朝刊掲載)

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