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福島事故後 海の環境考察 ピースデポの湯浅代表が出版

 NPO法人ピースデポ代表で、海洋物理学が専門の湯浅一郎さん(62)=東京都小金井市=が、福島第1原発事故後の海洋環境を考察し、本「海の放射能汚染」=写真=にまとめた。核実験による影響などとも比較しながら、海の生態系を壊す核エネルギー利用を厳しく批判している。

 A5判、192ページ。福島の事故で海に放出された放射性物質の量は、東京電力や国が発表した部分的なデータしかなく全容は不明。湯浅さんは、それらのデータを基に、昨年末までの水産物の放射能汚染状況や生物濃縮などの影響を予測・分析。世界三大漁場の一つである三陸沖の汚染が長期に及ぶ可能性を指摘している。

 また、米国によるマーシャル諸島での水爆実験後の海水汚染の実態や、日本の原発の使用済み核燃料を再処理する欧州の工場が平常時にも周辺海域を汚染している問題も紹介。豊かさを求め、地球規模で海を汚し続ける人類に警鐘を鳴らす。

 仙台市で学生時代を過ごした湯浅さんは、研究者の立場から女川原発(宮城県女川町、石巻市)の反対運動に関わった。3年前までは呉市に暮らし、市民運動家としても核利用など科学技術の在り方を問い続けてきた。福島の事故後、海の汚染を整理した文献がないことに気付き、1年足らずで書き上げた。

 「人類は命の母たる海への畏敬の念を忘れてしまっている。今こそ福島の事態から目を背けず、核文明そのものをただす意志を持ってほしい」と訴えている。2730円。緑風出版。(森田裕美)

(2012年7月30日朝刊掲載)

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