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[つなぐ] 料理店経営 リー・サルーンさん=カンボジア出身 にぎわう店 内戦伝える

 レモングラスをはじめハーブや野菜をたっぷり使う。味付けは、ナンプラー(魚醤)やライム。酸味が程よく効いている。母親に習った作り方と味を生かして、リー・サルーンさん(38)が広島市内でカンボジアの家庭料理店を始めて4年4カ月。人なつこく明るい人柄もあり、エスニック料理とカンボジアに興味や関わりのある人たちでにぎわっている。

 カンボジアでは、世界遺産アンコールワットを含むアンコール遺跡群の観光拠点シェムリアップで観光ガイドをしていたリーさん。青年海外協力隊でカンボジアに赴任していた小学校教諭の鍵山彩さん(37)との結婚を機に、2010年3月、広島に移り住んだ。

 初めは、工場の生産ラインでアルバイトをしていたが、単調でつまらない。「広島の人にカンボジアについて、もっと知ってもらおう」と、12年10月に料理店をオープン。料理だけではなく、文化や遺跡、内戦などについても紹介するようになった。

 中でも、少年兵としてポル・ポト派と戦った自身の体験は壮絶だ。学校にもロケット弾が飛んできて、1日30分~1時間しか勉強できない。そして、小学5年の時、学校にやってきたトラックに何も知らされずに乗せられ、戦場に連れて行かれた。ジャングルの中で約3年間、死と隣り合わせの日々。「置いてきぼりになってトラに食べられる方が苦しい」と、病気やけがで動けなくなった同級生を楽にしてあげざるを得なかったこともあったという。

 体験が中国新聞に載ったのをきっかけに、高校や大学から講演の依頼が来るようになった。カンボジアへのスタディーツアーに同行して、現地の戦争博物館や遺跡、生まれ育ったオー村を案内することもある。

 カンボジアから要人が広島を訪れた際には案内する機会もある。ただ、原爆資料館(中区)に行く時は、心が痛む。「見たくない。カンボジアの戦争を思い出すから、つらい」

 最近は、カンボジアからの外国人技能実習生が増えてきたため、実習生向けの研修で、通訳として交通ルールや日本の法律を説明する機会が出てきた。法務省入国管理局や弁護士からの通訳依頼も入る。「いろんな分野の日本語を覚えたし、日本の法律にも詳しくなった」と話す。

 通訳の経験から、日本、カンボジア両国での新しい取り組みができないか考えるようになった。日本に来るカンボジア人に対して「もっと日本語を学んで来た方がいい」と思う。そのため、日本の法律も学べるような日本語学校をカンボジアで開きたい。一方、カンボジアに進出しようとする日本の企業向けには、現地の商習慣や法律について紹介する機会をつくれればと思う。

 忙しくなってきたリーさんをカバーするため、弟のサリットさん(27)が昨年11月に来日。店で働き始めた。日本語を勉強しながら、メニューの充実を図っていく。(二井理江)

(2017年2月27日朝刊掲載)

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