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連載・特集

緑地帯 「声」を求めて 藤森晶子 <5>

 フランス留学前の壮行会に、友人が配偶者を連れてきた。50代のテレビ番組プロデューサーで、私の研究テーマに関心を持ってくれており、先行研究を踏まえた「丸刈りにされた女たち」についての修士論文を渡した。

 留学先のストラスブールに落ち着いた頃、その夫婦が来訪した。私は喜んで家に招いたり、街を案内したりした。数週間後、夫の方から連絡が来た。「丸刈りにされた女たち」をテーマに番組を制作中なので協力してくれないか、アルバイト代は支払うからという。夫婦で来たのも取材のついでだったようだ。

 すでにフランスやドイツのしかるべき機関に連絡を取り、取材が進んでいる様子がうかがえた。だが「丸刈りにされた女たち」はまだ見つけられていなかったのだ。

 当時、私自身も道半ばにいた。思うように「女たち」の話を聞けずに焦り、そもそも無謀な計画だったのではないかとネガティブになっている時期だった。

 結局、協力しなかった。テーマを横取りされる不信感がなかったとはいえないが、根本的な理由ではない。マスメディアの取材班と行動を共にすることで、「丸刈り」の「被害者」として声を聞きたいという私個人の思いが、おばあさんたちに正確に伝わらないのではと危惧したからである。

 留学を終えて1カ月後、日本で放映された番組を見た。ドイツ兵とフランス人女性の間に生まれた子どもを取り上げた興味深い番組ではあったが、「丸刈りにされた女たち」への取材は含まれておらず、複雑な思いだった。(在日外国公館勤務=東京都)

(2017年2月28日朝刊掲載)

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