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社説・コラム

天風録 「アカデミーどんでん返し」

 これはジョークじゃないのか―。3カ月前の大統領選のどんでん返しを思い起こした人もいただろう。米アカデミー賞の授賞式である。最も注目された最後の作品賞でハプニングが起きた▲一度はミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」と発表されたが、直後に訂正され黒人少年の心の成長を描いた「ムーンライト」に決まった。この映画の監督が「これはフェイク(偽)じゃない」と叫ぶほどの急転だった▲貧困や薬物を巡る問題、性的少数者(LGBT)といった米国の素顔と向き合う作品だ。偏見に苦しむ主人公を一つのメッセージが包む。月光(ムーンライト)の下ではあなたはただ青色に輝くだけ―。肌の色も性別も関係ない、一人の人間だと▲米国社会をむしばむような差別と分断を危ぶむ発言は、授賞式でも相次いだ。ハリウッドのイベントで政治的発言は珍しくないが、現職大統領へ批判がこうまで集中するのは異例だった▲民主主義は暗闇で死す―。トランプ大統領と対立するワシントン・ポスト紙が2月から掲げている標語だ。大統領には「暗闇もいいもんだぜ」と豪語した腹心もいるそうだが、かのSF映画の見過ぎか。ジョークにも善しあしがある。

(2017年3月1日朝刊掲載)

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