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社説・コラム

社説 米大統領の議会演説 政策のつじつま合うか

 米国のトランプ大統領が、上下両院の合同会議で初の施政方針演説に臨んだ。強さ一辺倒のいつもの「米国第一」から「国民を第一にすべきだ」と踏み込み、国民融和を唱えた。

 どれほどの国民が、額面通りに受け取っただろう。立ち上がって拍手を返す与党共和党の議員に対し、野党の民主党は座ったまま冷たい視線を送る。そんな議場の風景は、引きずる分断の根深さをのぞかせる。

 政策面では、あらためて金看板を掲げた。「歴史上、最も大規模な」国防費増額を求めたのにとどまらず、インフラ整備につぎ込む資金については官民で「1兆ドル(約113兆円)」と目標額まで打ち出した。

 いったい、どこから財源を持ってくる腹積もりだろうか。

 外交を担う国務省予算や地球温暖化対策費などを削る方針だという。これまで温暖化対策を熱心に進めてきた民主党の反発は目に見えている。

 今回の演説では「歴史的な税制改革」として、中間層の大幅減税や法人税の低減にも意欲を示した。加えて、巨額のインフラ投資である。これで支出削減が思うに任せなくなれば、借金頼みとなりかねない。財政均衡を旨としてきた身内の共和党も黙ってはいまい。

 予算案の実現は不透明であり、波乱含みといえる。

 それでいて、足元は何とも頼りない。政策遂行の要となる政権人事で迷走が続く。国家の安全保障を担うはずだったフリン大統領補佐官が辞任したかと思えば、労働省や海軍、陸軍それぞれの長官候補者3人が相次いで指名を辞退した。

 一見、四面楚歌(そか)の気配だが、決して侮ってはならない。イスラム圏7カ国に対する入国禁止令をはじめ、次々と署名した大統領令も今回の施政方針も全て、大統領選の時に有権者と約束した政策以外の何物でもないからである。トランプ氏も容易には引き下がるまい。

 事実、世論調査によると、支持率は歴代の大統領で発足時として最低レベルといわれながらも、底堅いものがある。

 最も物議を醸した入国禁止令の時でさえ、全米で賛否を問うたロイター通信の調査では賛成が49%で、反対の41%を上回った。国内外で反響が渦巻いた後の、CNNテレビの調査では反対が53%と逆転したものの、賛成も47%に及んでいた。

 入国禁止令は、司法のブレーキによって差し止められた。今度は、予算承認の権限を握る議会の厳しいチェックにさらされる。威勢はよくても、行き当たりばったりの政権運営が、この先も続くのだろうか。

 雇用創出をうたうが、失業率は5%台を切り、史上最低レベルに近づいている。1兆ドルもの公共投資で、今度は人手不足となる恐れもある。移民制限の看板政策で、かえって自縄自縛に陥りはしないか。撤廃を訴える医療保険制度改革(オバマケア)にしても、加入者には共和党支持者もいるはずだ。

 財源の裏付けはあるか。関連施策との食い違いは―。要は、丹念に政策のつじつまを合わせる一層の努力が不可欠である。

 説明を尽くし、政策理解を積み上げた先にこそ、国民の融和はあるのだろう。さもなければ、ただの大言壮語に終わってしまうに違いない。

(2017年3月2日朝刊掲載)

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