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連載・特集

緑地帯 「声」を求めて 藤森晶子 <6>

 フランス解放時の「対独協力者」に対する暴力を伴う粛清の様子を捉えた写真や映像は、多く残されている。こうした記録が各地の史料館にきちんと保存され、私のような外国人が訪問しても、分け隔てなくアクセスさせてもらえることには、毎回感動を覚える。

 英ロンドンの帝国戦争博物館で、第2次世界大戦下の連合軍が撮影した写真を閲覧していた時のことである。一つの写真が引っ掛かり、前に進めなくなった。それは、ナチス・ドイツへの抵抗運動レジスタンスのメンバーらしきマッチョなフランスの男たちに連行される、初老の日本人男性の写真であった。

 背景はぼやけていても、場所はパリ市街なのが分かる。力の差は歴然としており、日本人男性は「君たちに従うからこれ以上殴らないでくれ」と言っているように見えた。

 背広姿からして、軍人ではなさそうだ。大使館員だろうか、商社マンだろうか。当時の日本はナチス・ドイツと手を組んだ枢軸国。複数の日本人が、枢軸国の一員であるとして、フランス解放後に収容所で過ごしたことをその後知った。

 その男性が日本人だというだけで、私はその日見たどんな残虐な「丸刈りにされた女たち」の写真よりも、大きなインパクトを受けた。まるで写真の中に自分の祖父を見つけてしまったかのように。

 この男性はその後どうなったのだろうか。この人だけでなく、当時パリにいた日本人は、おびえて過ごしていたのだろう。いつか、調べたいと思っている。(在日外国公館勤務=東京都)

(2017年3月1日朝刊掲載)

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