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連載・特集

緑地帯 「声」を求めて 藤森晶子 <7>

 きっかけは、広島の実家で母が読んだ新聞記事だった。市内の高校生約40人が2005年5月、私が留学していたフランス・ストラスブールである高校生版の欧州議会「ユーロスコラ」に招待され、平和の大切さを訴える発表の準備を進めているという。

 「せっかく同じ町にいるのだから、手伝いでもしてみんさい」と母に促された。同郷の高校生たちの企画は人ごとには思えず、ボランティアを申し出た。

 5月になり、広島から高校生たちがやって来た。私は他の日本人留学生にもボランティアを募り、当日を迎えた。高校生たちは、原爆被害を描いた紙芝居を上演した。ただ、台本は現地の言葉ではなく英語であり、紙芝居は小さすぎた。廊下まで観客がはみ出すほどの盛況で開始したが、途中で出て行く人が目立ち始めた。

 状況を打開したのは、在ストラスブール総領事館の領事だった。生徒たちの英語を逐次、フランス語に訳し始めたのだ。会場は活気を取り戻し、ほっとした。高校生もなかなか立派にやり遂げた。

 しかし、広島出身でないボランティアの日本人留学生たちは、紙芝居の内容にしらけた様子だった。原爆による急性症状や後障害、平和を祈る折り鶴の話などは、彼らの心にはまったく響かなかったようだ。

 協力してくれた仲間に感謝しつつ、失望した。被爆地出身の若い世代が使命感を持って原爆による悲惨な体験を伝えるのは「独り善がり」なのだろうか。どうすれば伝えていけるのだろうか。大きな課題を突き付けられた。(在日外国公館勤務=東京都)

(2017年3月2日朝刊掲載)

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