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連載・特集

緑地帯 まち物語の復興力 福本英伸 <2>

 東日本大震災からの復興を願って始めた東北まち物語紙芝居化100本プロジェクト。紙芝居を届けるだけでは戸惑うだろうと、実演のため、広島から十数人のスタッフが出向くことになった。

 2012年ごろはまだ原発事故の記憶が生々しく、テレビや新聞でもしきりに放射能の影響が取り沙汰されていた。実演メンバーには被爆者も被爆2世もいる。当然のように、ヒロシマの体験をどう伝えるかが議論となった。

 「今、話をするのは酷」「今だからこそ伝えなくては」と意見は二分した。答えが出るはずもないまま、福島を目指した。仮設住宅を巡る中、そうした議論はすっかり忘れ、被災者の皆さんと温かい時間を過ごした。

 福島遠征の最終日の夜のことだだった。われわれを受け入れてくれた人々が、交流のための宴席を宿泊施設で開いてくれた。福島人と広島人が入り交じった楽しいひとときだったが、時が進むにつれて福島の人は帰宅し、気が付けば広島のメンバーがほとんどとなった。酒の勢いもあり、いつしか話は広島での議論に戻った。

 メンバーの被爆者が、子どもを産むことについて悩んだ妻の話を語れば、被爆2世が「子を産むのを悪く言うのはいけん」と応戦する。やりとりは熱を帯び、次第に大きくなる。最後にはつかみ合わんばかりの勢いだ。

 施設に残っていた福島の人もいた。激しいやりとりは当然、耳に入ったことだろう。どんなふうに伝わったのか、いまだに聞き出せていない。(まち物語制作委員会事務局長=広島市)

(2017年3月7日朝刊掲載)

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