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連載・特集

放影研70年 <上> 歩み 被爆と病気 関係に迫る

 日米両政府が運営し、被爆者や被爆2世の健康を調査している放射線影響研究所(放影研、広島市南区)は10日、開設70年を迎える。被爆地での前例のない研究は、放射線被曝(ひばく)と病気との関係に迫り、世界の放射線防護を支えてきた。歩みと将来像をみる。(長久豪佑)

 「放影研には膨大な研究データの蓄積がある。被爆者は減るが、やるべき研究はいっぱいある」。研究について勧告するため、外部研究者13人でつくる科学諮問委員会が年1度の放影研での討議を終えた3日、共同座長の祖父江友孝・大阪大大学院教授(がん疫学)が記者会見で強調した。

統計的に調査

 放影研は、米国の原爆傷害調査委員会(ABCC)として広島赤十字病院の一部を借りて1947年に研究を始めた。柱は、被爆者約12万人を対象に死因を追跡する「寿命調査」と、約2万3千人の病気の発症と被曝線量の関係を調べる「成人健康調査」。統計的に病気の原因などを調べる疫学の手法で、被曝線量が高いほど白血病を含むがんの発症率や死亡率が高いと突き止めた。国際的な防護基準につながった。

 近年の研究では、放射線でリスクが高まるがんの部位別のデータはさらに詳しくなっているという。「データを有効に使い、発がんのメカニズムの解明など成果をより追求してほしい」(祖父江教授)と疫学分野を超えた発展を期待する。

 ノウハウは、2011年に起きた福島第1原発事故にも生かされようとしている。15年、事故直後に現場で緊急作業をした約2万人の長期的な健康調査に着手。科学諮問委からは福島県民の健康調査も主導するべきだとの勧告を受けた。

軍事目的濃く

 ABCCは開設当初、軍事目的が色濃く、「調査すれども治療せず」と被爆者から批判を浴びた。

 「被爆者を単なる研究対象として見ていたわけではない。部下には誠意を持ち、敬意を払えと言い続けた」。元遺伝学部長の阿波章夫さん(83)=佐伯区=が振り返る。妊娠した被爆者から「産んでも大丈夫か」と幾度も問われた。感情的な言葉を浴び、組織への厳しい視線を感じたという。「初めての研究というやりがいに支えられた」

 00年から取り組む被爆2世の健康調査では07年に「現時点では、親の被曝が子の健康に影響することを示す証拠はない」との結果を示した。先月、広島、長崎の被爆2世50人が国の援護を求めて起こした訴訟で、国側の反論材料に使われる可能性がある。

 調査に協力してきた原告の1人、高校教諭角田拓さん(53)=東区=は研究の重要性は理解しつつ「複雑な思いはある。本当に被爆者や2世の側に立っているか、常に考えてほしい」と求める。

放影研の研究の主な経緯

1947年 3月 米国により、原爆傷害調査委員会(ABCC)が発足
  48年 7月 長崎市にABCC開設
  50年10月 国勢調査の付帯調査として全国被爆生存者調査を実施。それ          を基に寿命調査に着手
  58年 7月 成人健康調査を開始
  75年 4月 改組により、日米共同運営の財団法人として放影研が発足
2000年 5月 被爆2世の健康調査が始まる
  15年10月 福島第1原発事故の作業者を対象にした健康調査を開始

(2017年3月9日朝刊掲載)

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