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連載・特集

緑地帯 まち物語の復興力 福本英伸 <5>

 福島との関係が6年目となる昨年、活動の柱を「恩返しプロジェクト」とした。避難者と一緒に、お世話になった避難先の町おこしに取り組むもので、避難先の魅力を発信するため紙芝居やアニメーションを制作し、地域の人と共にアピールする。

 このプロジェクトを発案したのは、福島を巡る中で、避難先の住民と避難者との軋轢(あつれき)を聞いたからだ。

 今も福島県民だけで県外に約4万人、県内に約4万人が不自由な避難生活を続けているが、私たちが聞いたものだけでも、購入した車にペンキをかけられたり、仮設住宅の窓が割られたりといった話は一件や二件ではない。故郷への帰還を諦め、避難先の住民になると決めた人があいさつ回りで配った粗品が翌朝、玄関の前に返されていたという話もある。

 ひどい話だが、ひどいの一言で片づけられない事情がある。受け入れを拒む住民も大なり小なり被災者だ。そして、避難区域となるかどうかを分けるのは、目に見えない、臭いもない放射能であり、その健康被害は、これ以上が絶対危険でこれ以下は絶対安心というものではない。その中で、賠償金をもらえる人ともらえない人といった格差が生まれる。

 格差が「かわいそう」から「何で?」へと変貌し、その「何で?」が積み重なって牙をむく。それが国や東京電力に向かうならまだしも、同じ福島県民に向かうのは何ともやりきれない。少しでも改善を願い、取り組むのが恩返しプロジェクトだ。(まち物語制作委員会事務局長=広島市)

(2017年3月10日朝刊掲載)

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