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社説・コラム

社説 南スーダン陸自撤収 派遣の判断検証尽くせ

 難しい決断だったのは間違いない。だが、なぜ今だったのだろうか。疑念が晴れない。

 南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣している陸上自衛隊を、政府は5月末をめどに撤収させる方針を決めた。国連職員たちが武装集団に襲われた時、武器を持って助けに行く新しい任務「駆け付け警護」を付与して4カ月。突然の政策変更である。

 政府は判断理由について、首都ジュバでの施設整備に「一定の区切りを付けることができる」「治安の悪化によるものではない」と強調している。果たして、どれだけの人が言葉通りに受け取るだろう。

 南スーダンでは一昨年8月に和平協定が調印されたものの、事実上の内戦が再燃している。ジュバでは昨年7月、270人以上が死亡する大規模な武力衝突も起きた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は先月、戦闘の全土拡大で治安が悪化し、難民は150万人を超えたと発表している。

 そうした情勢に、紛争当事者間の停戦合意などが柱のPKO参加5原則は守られているのか、と今国会でも野党から質問が相次いでいる。唐突な撤収方針が、派遣判断の是非を巡る追及をけむに巻くためだとしたら看過できない。

 すんなりと政府の弁を受け入れられないのには伏線がある。現地派遣部隊が作成した「日報」の問題である。

 防衛省が「廃棄した」としていた日報が見つかった上、ジュバで「戦闘」があったと記述されていたことが明らかになった。にもかかわらず、稲田朋美防衛相は「法的用語としての戦闘行為ではない」などと奇怪な弁明をして、「戦闘」とは認めようとしなかった。

 不穏さを増す現地情勢を政府が知らなかったはずはない。事実、派遣延長や新任務の駆け付け警護を検討していた昨年9月、すでに撤収も含めた検討に入っていたという。なぜ、その段階で撤収を決断できなかったのだろうか。

 これまでのところ、派遣部隊が駆け付け警護などを余儀なくされる事態が起きていないのは幸いといえる。とはいえ、新任務の付与から約4カ月での撤収決定とは何だったのか。安全保障関連法の実績を作るための先延ばしが狙いで、「派遣ありき」が前提だったのでは―と疑われても仕方あるまい。

 現地の不安定な情勢を鑑みると、これ以上派遣が長引けば、不測の事態も予想された。万が一、自衛隊員の命が失われるようなことがあれば、政権を揺るがしかねない。それを回避したい意向も、安倍晋三首相の決断には働いただろう。

 撤収を決めたとはいえ、派遣部隊の任務はまだ2カ月余り残っている。戦闘に巻き込まれる恐れが拭えない。駆け付け警護の任務はこの際、保留とすべきではないか。  派遣延長と新任務付与の判断が正しかったのか、国会などで徹底検証をする必要がある。それには、正確な情報と判断した経緯の開示が欠かせない。

 近年のPKOは市民を保護する任務が主体となり、武器使用の局面を迫られる可能性も指摘される。非戦を誓った国に恥じない国際貢献の在り方を再検討する契機とすべきである。

(2017年3月12日朝刊掲載)

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