社説・コラム

天風録 「自走式ロボット」

 平均気温は、およそ氷点下60度。大気もほとんどが二酸化炭素だから、人間の住む環境には程遠い。それでも地球と「兄弟星」の火星には生物がいるはずだ。そんな夢を人類は長年描いてきた▲ならばと調査が繰り返されてきた。20年前には、米国の探査機が火星に着陸し、小さな自走式ロボットが初めて乾いた大地を走り回った。人間にとっては厳しい環境で観測データを送ってくる献身ぶりが、話題になる▲過酷さは、こちらも同じぐらいか。福島第1原発である。核燃料(デブリ)の溶け落ちた1号機で自走式ロボットによる再調査がきのう始まったが、早くもつまずいた。放射線が飛び交う格納容器の闇は、底知れない▲デブリがどこに、どれほどあるのか。データなしには廃炉もおぼつかない。数分間浴びれば命が危うい2号機ほどの線量ではないとしても相当のはず。背負った使命は、決して軽くない▲火星のロボットも、立ち往生などのトラブルに見舞われた。それでも想定を上回る3カ月間、働き続け、今に名を残す。何より兄弟星の姿を解き明かす礎となった。福島原発のロボットもデブリという悪夢に迫る。廃炉への長い道を歩む礎となれるだろうか。

(2017年3月15日朝刊掲載)
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