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社説・コラム

社説 PKO日報問題 重大な隠蔽 徹底解明を

 これまで一度ならず「廃棄済み」とされ、陸上自衛隊内には存在しないはずだった。南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報が、実際には電子データとして今年1月ごろまで保管されていた。

 その存在を伏せたまま破棄されたとの証言まであるという。それが本当なら、言語道断の隠蔽(いんぺい)工作である。

 稲田朋美防衛相はきのう、衆院の委員会審議で「破棄を指示するようなことは断じてない」と自らの関与を否定し、防衛省による特別防衛監察を指示するとの意向を示した。

 稲田氏は、大阪の学校法人「森友学園」に絡む答弁を撤回し、謝罪したばかりで、閣僚としての資質を疑われている。その問題を含め任命責任のある安倍晋三首相にも、事の次第を洗いざらい調べ、明らかにさせる責務があろう。

 現地から陸自が受信したPKO日報は昨年10月、情報公開請求を受けた。「廃棄済み」として12月に不開示を決定したものの、稲田氏の指示で再度探すと統合幕僚監部で見つかった。その時も、防衛省は「公開請求を受けた時点で陸自に日報はなかった」と言い張っていた。

 今回、内部告発で発覚したという。そもそも日報は、半年で交代する部隊にとって貴重な活動記録である。「廃棄」との説明を疑問視する声は当初からくすぶっていた。よほどの不満が内部に渦巻いていたとみえる。

 省内を制御しきれない現実を、稲田氏はどう受け止めているのだろう。統幕が文書を見つけた際も、防衛相たる自身への報告は約1カ月後と蚊帳の外に置かれていた。もはや人心が離れているのではないか。

 問題は、もうひとつある。あまりにずさんな公文書管理である。

 安全保障に関わる情報を扱う以上、一定程度の機密保持は理解できる。とはいえ、それも適切な運用に対する国民の信頼があってこそである。今回、それが大きく傷ついたことを深刻に受け止める必要がある。

 防衛省はなぜ、事実を知りながら、陸自には日報データがないと言い続けたのだろう。

 公開請求のあった時期は、国会で南スーダンの治安情勢が焦点となっていた。派遣部隊に「駆け付け警護」など安全保障関連法に基づく新たな任務を付与するかどうか、与野党の論議もヤマ場を迎えていた。

 重要な判断材料となった日報には、「抗争」から「戦闘」へと拡大する表現もあり、政府の方針にとって「不都合な文書」となりかねない―。そう推し量って隠したのかと勘繰られても仕方なかろう。

 派遣部隊の撤収方針はもう決まったのだから、とは見過ごせない重大な問題もはらむ。

 国民の知る権利が阻害されかねないからだ。もっといえば日報は、歴史の検証のためにも後世に残すべき記録にほかならない。歴史に対する責任を、政治家も認識しなければなるまい。

 PKO関連文書の保存基準は3年間と内部の管理規則で定められている。ただ、日報については例外規定を運用し、1年未満としていたという。抜本的な見直しが不可欠だ。

 特別防衛監察では、一部始終の徹底的な解明と情報の開示に努めてもらいたい。

(2017年3月17日朝刊掲載)

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