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[核なき世界への鍵] 核兵器全廃 道筋は 禁止条約交渉 27日国連本部で開始

 核兵器を禁止して全廃する初の条約交渉が、27日に米ニューヨークの国連本部で始まる。核保有国の積極参加が見込めない中、開発や保有、使用などあらゆることを即時に禁じる「禁止先行条約」を作り、賛同する非保有国だけでも発効を目指す考えが有力になっている。ただ、段階的な禁止を認める「枠組み条約」とし、保有国を交渉に促す案もある。それぞれ廃絶の道筋をどう描くか、整理した。(水川恭輔、金崎由美)

禁止先行条約

有志国だけでまず発効

「非人道」の世論で保有国の加盟狙う

 核兵器に「汚名」を着せる―。禁止先行条約を各国に働き掛ける有力な非政府組織(NGO)の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、そう訴える。英語では「BAN TREATY」と表記。世界の大多数を占める非保有国の有志だけでもまず全面的な禁止条約を制定・発効し、使ってはならない非人道兵器との国際規範を根付かせる。その上で、保有国に廃絶へ圧力をかける狙いだ。

 コスタリカが1997年に国連総会に提出した核兵器禁止の「モデル条約」は廃棄の期限や検証の規則も制定時に定める包括的な案だった。いずれも核兵器を持つ当事者の保有国の関与が要り、それらの加盟が発効の前提となる。

 それに比べ、禁止先行条約は廃棄・検証の具体策は後回し。世論もてこに、保有国を加盟に動かし、法的拘束力のある議定書などで定める道を描く。

 こうした「汚名」による軍縮の促進は、有志国主導で2010年に発効したクラスター弾禁止条約が成功例。結果的に未加盟の米国でも唯一の製造業者が生産中止を決めた。ただ、同条約は兵器を持つ国が一部当初から入り、兵器の安全保障上の位置付けも核兵器に比べて小さい。「同様の手法は核兵器の場合、実効性に疑問が残り、溝が残り続けかねない」との懸念の声もある。

枠組み条約

全ての国の参加目指す

具体的な禁止事項 議定書で個別対応

 一方、枠組み条約は、「核保有国は保有核兵器の完全廃棄を達成する明確な約束を行う」などの法的誓約をする基本合意にとどめ当初から全ての国が参加した形での制定を目指す。NPO法人ピースデポ(横浜市)が具体案を発表。00年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書などに沿う内容で、禁止先行条約に比べ保有国にも働き掛けやすいとみる。

 具体的な禁止事項は、個別の議定書で同時に定め、各国の安全保障環境に応じて順次加盟できるのがみそ。例えば、急がれる使用・威嚇の禁止に限った議定書への加盟を優先。核戦力の透明性向上や役割低減、廃棄・検証に向けた措置をそれぞれ別の議定書に盛り込み、核兵器に安全保障を頼る国に加盟を働き掛けるという。

 先進国と発展途上国の利害が対立する中、地球温暖化対策を目指す気候変動枠組み条約などがモデルだが、核軍縮の専門家からは「条約ができても、禁止を定めた議定書への加盟の留保が横行する」との主張も聞かれる。

日本政府の選択肢

安保政策の扱い焦点に

 日本は米国の「核の傘」の下にある安全保障を見直すかどうかが問われる。特に、禁止先行条約は傘からの脱却が原則不可欠。維持と加盟の両立を目指すなら、使用禁止に例外を求めるなどの「条件闘争」が必至だ。一方、枠組み条約なら参加しながら安全保障政策を転換する猶予があり、現状で推進可能とされる。

 平和首長会議(会長・松井一実広島市長)は全ての国が法的禁止に参加するよう求める。日本を含む各国に対し、安全保障上の核兵器の役割を減らすことを訴えている。

(2017年3月20日朝刊掲載)

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