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被爆樹木の願い 世界へ 米国のガイズバートさん 児童書を英訳 

ユニタール広島で研修中 支える姿にも感銘

 国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所に、米オハイオ州出身のアナリス・ガイズバートさん(23)がインターンとして勤めている。海外からの研修受け入れに携わりつつ、被爆樹木との出会いを記した石田優子さん(38)=東京都=の児童書「広島の木に会いにいく」(偕成社刊)を英語に翻訳している。「原爆を耐えた木と人を通し、世界で原爆被害についての関心が高まってほしい」と話す。(金崎由美)

 ガイズバートさんは米オーバリン大で日本語と英文学を学び、将来の夢は翻訳者。被爆樹木やその子孫の苗木を世界に広める団体グリーン・レガシー・ヒロシマ・イニシアティブ(GLH、広島市中区)から同大に2015年、アオギリなどの苗が贈られたことを機に関心を持ったという。同大の関連NPOが主催する被爆地への派遣事業に応募し、昨年9月の卒業と同時に赴任した。

 GLHをユニタールと共同運営する中区のNPO法人ANT―Hiroshima(アント・ヒロシマ)でも毎週金曜、英語の情報発信を担当する。その中で漫画家の故中沢啓治さんを生前に追った映画「はだしのゲンが見たヒロシマ」の監督でもある石田さんの著書に感銘を受けた。

 この本では樹木医の堀口力さん(71)=西区=の案内で、被爆樹木の生命力や傷痕、幹の傾きなどを観察する様子を描く。自らの苦難を木に重ねる被爆者の証言も収録している。「72年の時を耐えた木々の姿。何よりも命を大切にし、平和を願いながらケアする人たちの心が素晴らしい」とガイズバートさん。

 児童書のため、難しい漢字に振り仮名があるのも好都合だった。石田さんの快諾を得て、今年から作業を開始。こつこつ数ページずつ翻訳し、ANTの英語ブログに順次アップしている。これまでに広島城跡のユーカリなどを紹介した章を公開した。

 最近、ガイズバートさんは堀口さんが海外からの見学者を案内する際に同行することもある。「被爆樹木について海外でほとんど知られていない。豊かな感性で世界に発信してくれて頼もしい」と樹木治療の第一人者も信頼を寄せる。

 ガイズバートさんの滞在予定は来年夏まで。「個人的な関心から始めた作業。できる範囲だが急がず、丁寧な翻訳をしたい」と言う。著者の石田さんも「この本と身の回りの樹木を通じて、物言わぬ木からの平和の訴えを感じ取ってくれたのだと思う」と喜んでいる。

(2017年3月20日朝刊掲載)

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