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社説・コラム

社説 「共謀罪」法案 刑事法の原則 崩すのか

 政府はきのう、「共謀罪」法案を閣議決定し、国会に提出した。共謀罪の構成要件を絞り込んで「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案である。呼び名や体裁を改めてはいるが、根本にある危うさは何ら変わっていない。

 重大な犯罪が実行されなくても、計画の段階で処罰できるようになる。実際に罪を犯して初めて罰する刑事法の基本原則を崩すものだ。捜査機関の恣意(しい)的な運用で市民が適用対象にされ、逮捕される恐れもある。

 プライバシーの領域が侵害され、「内心」の自由や表現の自由が軽視されかねない。市民生活の自由に対する脅威や危険性を認識する必要がある。

 共謀罪法案は過去3度、国会に提出され、いずれも廃案になった。処罰対象が不明確で市民団体や労組のメンバーが摘発される恐れを指摘されたためだ。

 そこで政府は「組織的犯罪集団」との要件を加え、一般市民が処罰の対象になる不安を解消したという。一方で、正当な活動をしていた団体なども目的や性格が一変した場合には、当然対象になると説明している。

 問題は、何が「正当」で、どこから「不当」と認定されるのかがあいまいな点だ。その判断を捜査機関が担うのだから、なおさらだろう。範囲が広すぎるとの批判を受け、当初は676種類あった対象犯罪数も絞り込んだ。277種類にしたとはいえ、本質は変わるまい。

 捜査機関の解釈次第で、処罰対象の枠組みは一気に広がる。企業の活動さえも対象となる可能性が排除されていない。

 政府は東京五輪・パラリンピックに備えたテロ対策の強化に欠かせないと強調し、国際組織犯罪防止条約の早期締結を目指している。今回の「共謀罪」新設の根拠としてきた。

 ただ、国連が求める条約の重点は本来、国境をまたぐマフィアなどの組織犯罪対策である。資金洗浄や人身売買、麻薬取引などを念頭に置く。テロ対策は含まれておらず、共謀罪を新設する理由には当たらない。

 そもそもテロ対策であれば、刑法で、内乱や放火、殺人などに「陰謀罪」や「予備罪」がすでに設けられている。

 「現行法では的確に対処できない」との説明を繰り返すだけでは、テロ対策を名目に不安をあおって強引に法整備を進めているようにしか映らない。

 仮に成立すれば、計画段階の犯罪をあぶり出すため、社会に監視の網を広げようとする捜査機関の動きをどうコントロールするつもりだろうか。

 通信傍受で電話やメールの内容をチェックしたり隠し撮りをしたりするのはもちろん、屋内に送信機を仕掛ける「会話傍受」も認めかねない。監視や密告が横行する息苦しい社会になってしまうかもしれない。

 刑事法の基本原則を揺るがすだけでなく、国民の権利侵害につながりかねない法整備だ。政府は立法の必要性や合理性を厳密に立証し、国民に分かりやすく説明する責務がある。

 政府・与党は今国会での成立を図る構えだが、法案は問題が多すぎる。国会審議で疑念や不安が一掃されない限り、到底受け入れることはできない。

 数の力で無理やり押し通すようであれば、国民の信頼を損なうだけだ。

(2017年3月22日朝刊掲載)

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