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連載・特集

緑地帯 朴さんの手紙 久保田桂子 <1>

 私が監督したドキュメンタリー映画「海へ 朴(パク)さんの手紙」が先月、広島市西区の横川シネマで上映された。舞台あいさつのため、数年ぶりに広島を訪れた。初めて訪れたのは2007年。夜行バスで早朝のJR広島駅に降り立ったあの時から、もう10年が経過した。

 呉方面の電車に乗ると、やがて坂町の港が見えた。沖に目を凝らす。当時はいつも、貨物船を探していた。ソウルで出会った男性から、戦前に広島の海で貨物船乗りをしていた親友に宛てた、一通の手紙を預かっていた。

 「山根さん、お元気ですか。私は朝鮮人朴道興(ドフン)です。北海道の余市で出会って、色丹、シベリア、約三年間私たちは一心同体になって助け合って過ごしました。君のことを思い出して手紙を書いたけど、住所を忘れてしまって…。〝広島県アキタ郡”と書いて、手紙を出したが、何の返事もなかった。もしこの手紙を見たら、すぐ便りを頼みます。」

 ソウルに住む元日本兵の朴さんが、軍隊時代の親友・山根さんへ書いた手紙だ。日本語でつづった手紙はすべて「宛先不明」で戻ってきた。

 ふたりの出会いは、終戦間際の北海道。朝鮮半島で召集された21歳の朴さんは、配属された余市で同年兵の山根さんと出会う。

 冒頭に挙げたドキュメンタリーは、朴さんの手紙を巡る旅の物語だ。ふたりが出会ってから約60年後の05年、ソウルで朴さんと出会った私は、山根さんの行方を捜すことにした。(映像作家=長野県)

(2017年3月16日朝刊掲載)

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