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連載・特集

緑地帯 朴さんの手紙 久保田桂子 <7>

 朴道興(パク・ドフン)さんの親友、山根秋夫さんの故郷広島への旅は、消息がつかめて数カ月後となった。

 山根さんのお墓は高台にあり、山の木々は黄色や赤に紅葉していた。「朴さんについて夫から聞いたことはなかったけど…。夫は朴さんが話した通りの、優しい人でした」。みすえさんは日が暮れるまで、夫とのなれ初めや結婚生活、理想を掲げた政党員としての姿、闘病、結婚10年での死別などについて話してくれた。

 私は、広島で撮った映像を、ソウル郊外の朴さん宅に持参した。朴さんはテレビ画面に向かって手を合わせた。画面には山根さんのお墓が映っていた。

 「山根さんが亡くなったと知った時、弟が死んだ時のように悲しかった」。朴さんは弟を朝鮮戦争で亡くしていた。朴さんはシベリアから今の北朝鮮にある故郷に復員し、北側の兵として朝鮮戦争に参加したが、山根さんと別れた後の人生については、言葉少なであまり話そうとしなかった。

 朴さんは南側の捕虜になり、釜山沖の収容所で過ごした後、今度は韓国軍に入隊した。朴さんが戦争で幾度も思想の変転を余儀なくされたことを、私は後の手紙のやりとりで知った。

 朴さんはみすえさんに手紙を書き、私にも見せてくれた。「私は幼い頃に父親を亡くし、貧しさからいじめられた。日本軍隊でもっといじめられると思ったが、そこで山根さんに出会い親切にしてもらい、軍隊でもシベリアの収容所でも助け合って生き延びることができました。…今も山根さんに会いたいです。」(映像作家=長野県)

(2017年3月24日朝刊掲載)

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