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基準地震動 どう判断 伊方差し止め仮処分 広島地裁あす決定 

四国電力側「想定に対し余裕ある」/住民側「信頼性なく過小評価」

 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求め、広島市と松山市の住民4人が申請した仮処分について、広島地裁が30日に決定を出す。東京電力福島第1原発事故後、原発の安全対策について司法判断は割れている。昨夏に再稼働した伊方3号機を巡り計4地裁・支部で提起された差し止め仮処分申請では初となる広島地裁の判断に注目が集まる。判決を前に主な争点を整理する。

昨年5回の審尋

 昨年4月から9月までの5回の審尋では、福島の原発で起きた水素爆発など重大事故への対策や原発の立地条件について主張を交わした。最大の争点は、電力会社が耐震設計の基準とする地震の揺れの大きさ(基準地震動)の評価だ。

 四国電力は、中央構造線断層帯と大分県側の別府―万年山断層帯が計約480キロにわたり連動すると想定。敷地周辺は震度6強から7に襲われるが活断層の性質や状態を把握しているとした上で、「複数の評価式を用い、想定される揺れに対し余裕を持った評価をしている」と説明する。

 住民側は、南海トラフに加え、原発の沖合約8キロに長大な中央構造線断層帯が通り、猛烈な揺れに襲われる恐れがあると指摘。「過去の地震の揺れの大きさなどを基にした評価式は信頼性がなく、過小評価だ」としている。

 福島の事故を踏まえて国の原子力規制委員会が2013年7月に策定した原発の新規制基準について、住民側は、「福島の事故原因が十分に解明されていない段階で策定され、災害を防ぐ上で支障がない基準と判断するのは不合理」と強調。四電側は、独立性・専門性を確保された規制委が策定したとし、「活断層や地震波の増幅などについて、より詳細な調査が必要となり評価手法は高度化している」などとする。

 事故時の被害想定と避難計画についても検討。住民側は「約100キロ離れた広島市にも深刻な被害が生じ得る。現時点で広島県や同市は何ら必要な対策を講じていない」などと指摘する。四電側は、厚さ約20センチの鋼鉄製の原子炉容器といった「5重の壁」などを挙げ「事故対策を進めており、放射性物質が大量に放出される具体的な危険性はない」とする。

司法判断割れる

 新規制基準の策定後、再稼働した原発は、九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)と関西電力高浜原発3、4号機(福井県)、伊方原発3号機の5基。

 いずれも運転差し止めの仮処分申請があり、昨年3月には、大津地裁が高浜原発について「事故対策や緊急対応に危惧すべき点がある」として、稼働中の原発に対して初めて運転を差し止める仮処分決定を出し、28日、大阪高裁の抗告審は運転禁止を取り消した。一方、川内原発では鹿児島地裁が15年4月、「新規制基準は合理的」などとして仮処分申請を却下し、福岡高裁宮崎支部も16年4月に住民側の抗告を棄却した。(有岡英俊)

<伊方原発差し止め仮処分申し立ての主な争点>

①住民側
②四国電力側

◇基準地震動
①伊方原発の沖合には長大な活断層「中央構造線断層帯」もある。東日本大震災を経験した今、地震規模の想定は科学的に不可能。四電の評価は、最新の知見がなく過小で恣意(しい)的
②綿密な地質調査で活断層の地盤の特性を把握し、複数の評価式を使って十分に余裕を持った評価をしている

◇新規制基準
①福島第1原発事故の原因解明が十分でない段階で策定されており、原発の安全性を確保するという目的を果たしたとは言えない
②福島第1原発や諸外国の規制基準を参考に、評価手法が高度化しており、専門家らによる集中的な議論を経て制定された合理的なものである

◇事故発生時の被害・避難計画
①福島第1原発事故と同等の事故が起こった場合、広島市にも深刻な被害は生じ得る。広島県や広島市が原子力災害に対して何ら必要な対策を講じてはいない
②安全対策を進めており、万一事故があった場合にも放射線物質が大量に放出される具体的な危険性はない。各自治体が策定した避難計画などの合理性は国が確認している

伊方原発と基準地震動
 瀬戸内海に面した愛媛県伊方町にある四国唯一の原発。福島第1原発事故後、2011年4月から12年1月までに1~3号機の全3基が定期点検のため運転を停止した。国の新規制基準が施行された13年7月、3号機の運転再開に向けて審査を申請した。四国電力は当初、耐震設計の目安となり想定する揺れの強さを示す基準地震動の最大値を570ガルとしたが、規制委から不十分と指摘を受けて650ガルに引き上げて審査に合格。16年8月に再稼働した。運転開始から40年に迫っていた1号機は、同年5月に廃炉となっている。

(2017年3月29日朝刊掲載)

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