×

ニュース

「新基準 うのみの判断」 伊方3号機差し止め却下 「国寄りだ」原告憤り

安全神話復活を危惧

 昨年8月に再稼働した四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めの仮処分申請を却下した30日の広島地裁の決定は、福島第1原発事故後に定められた新規制基準を合理的とした。甚大な被害が出た事故の教訓が生かされていない―。事故から6年を経た今も故郷を離れている避難者や同種裁判の関係者に憤りが広がった。(門戸隆彦、有岡英俊)

 「行政に寄った極めて不当な決定」。この日、広島地裁で仮処分の決定書を受け取った原告弁護団は、記者会見で語気を強めた。関西電力高浜原発(福井県)の運転差し止めを命じた大津地裁の決定が28日に大阪高裁で覆ったばかり。同高裁で住民側の弁護団長を務めた井戸謙一弁護士(63)は「政府が世界で最も安全とする新規制基準をうのみにした判断」と批判した。

 広島地裁は、四電の安全対策は、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性を認めた。九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)の運転差し止めを認めなかった昨年4月の福岡高裁宮崎支部の判断の枠組みを踏襲した。

裁判官も割れる

 原発運転の差し止めを巡る司法判断は専門的な知見に基づく国の基準に、電力会社の安全対策が適合するか否かの観点から審理されてきた。伊方原発の設置許可の取り消しを求めた訴訟の判決で、1992年に最高裁が示した判断が基準となっている。

 一方で、震災後は原発の再稼働を認めない仮処分決定も相次ぐ。井戸弁護士によると、震災後の原発差し止めを巡る仮処分申し立てと訴訟は全国で30件程度。高浜原発の差し止めを命じた2016年3月の大津地裁の仮処分決定は、新規制基準について福島原発事故の原因究明が不十分とし、「安心安全の基礎と考えるのはためらわれる」などと判断した。

「積極姿勢欠く」

 元裁判官の能勢顕男弁護士(65)=広島弁護士会所属=は、「福島の事故を受け、従来の判断にとらわれずに検討すべきではないかという声が裁判官の間で高まった」と判断が割れる背景を説明。広島地裁には「安全性を積極的に判断する姿勢に欠けている」とくぎを刺す。

 今も福島県の約3万9千人が県外で避難生活を強いられている。福島第1原発から約40キロの飯舘村から広島市安佐北区に移り住んだ農業青木達也さん(43)は「故郷を追われた人たちの思いが届かない。想定外の事故が起きたのに、安全神話が復活している」。

 井戸弁護士は「司法は最後のとりで。福島の教訓を生かすため、裁判所は被害と真摯(しんし)に向き合い、安全性に踏み込んで判断すべきだ」と話した。

伊方原発
 瀬戸内海に面した愛媛県伊方町にあり、加圧水型軽水炉計3基の原発。福島第1原発事故後、2011年4月から12年1月までに全3基が定期点検のため運転を停止した。1994年に運転を開始した3号機(出力89万キロワット)は15年7月に原子力規制委員会の審査に合格し、16年8月に再稼働した。運転開始から40年に迫っていた1号機は、同年5月に廃炉とした。

(2017年3月31日朝刊掲載)

年別アーカイブ