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「却下」に落胆・不満 伊方差し止め 被爆地の声届かず

 「無責任な決定」「納得できない」-。広島地裁が四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求めた申し立てを退けた30日、申立人や弁護団からは落胆と不満の声が上がった。被爆地ヒロシマから、原発事故への不安の声も司法には届かなかったが、「伊方原発が止まるまで闘う」と高裁での闘いを見据えた。(柳本真宏、新山京子)

 「差止めならず」。午後3時すぎ、地裁前に却下を伝える垂れ幕が掲げられた。弁護団長の河合弘之弁護士(72)が「四電側の主張を取り入れた不当な決定。非常に残念だが、諦めず闘いましょう」と訴えると、集まった支援者たち約150人から拍手が上がった。

 広島市中区の広島弁護士会館であった会見では、弁護団の中野宏典弁護士(38)が、決定は火山噴火の可能性について住民側に相応の根拠を示すべきだとしていると指摘。「学者でも予知できないと言っている。不可能を強いている判断」と批判した。

 申立人の1人で被爆3世の会社員綱崎健太さん(36)=中区=は「原発は安全と神話化されている。被爆を拒否する意思表示をしていく」。被爆者で差し止め訴訟の原告団長を務める堀江壮さん(76)=佐伯区=は「身をもって放射線による被害を分かっている。次の世代のために頑張りたい」と述べた。

上関と島根住民に波紋 「責任誰が」「安全性考慮」  広島地裁の却下決定に、中国電力の上関原発建設計画を巡る住民対立が続く山口県上関町と、中国地方で唯一の中電島根原発(松江市)が立地する島根県の住民たちに波紋が広がった。

 上関町は全域が四国電力伊方原発の半径50キロ圏内にあり、同町の離島・八島は同30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に設定されている。上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表は「私たちの不安に応えておらず残念。重大事故が起きた場合、誰が責任を取るのか」と憤る。一方、推進派の上関町まちづくり連絡協議会の古泉直紀事務局長は「安全性も考慮した決定」と受け止め「エネルギーミックスの観点から原子力は必要」とした。

 島根原発に反対する「島根原発・エネルギー問題県民連絡会」の保母武彦事務局長は「半島という特性上、難しい事故時の住民避難の計画作りが自治体に任されているなど、新規制基準は不十分」と指摘。「原発の安全性の立証を住民側に求めるのはそもそもおかしい」と批判した。

 中電は、島根原発2号機の再稼働に向け原子力規制委員会の適合性審査を受けている。建設中の3号機についても審査の申請準備中。中電に対し住民が運転差し止め訴訟を起こし、2号機は広島高裁松江支部、3号機は松江地裁で争われている。広島地裁の決定の影響について、中電は「係争中の案件でコメントは差し控えたい」としている。

 山口、島根両県知事は地裁決定に関し「コメントは差し控える」との立場。その上で、山口県の村岡嗣政知事は「八島がUPZ圏内で、住民避難などの防災対策に万全を期す」、島根県の溝口善兵衛知事は「今後の動向を注視していく」との談話を出した。松江市の松浦正敬市長も「特にコメントはない」とした。

 山口地裁岩国支部に伊方原発3号機の運転差し止めの仮処分を申請している、「伊方原発をとめる山口裁判の会」弁護団の中村覚弁護士(周南市)は「決定の内容を十分に検討し、原発事故時の住民の避難の困難性などの問題を強く打ち出した主張をしていく」とコメントしている。

<原発運転差し止めを巡る主な司法判断>

判決・仮処分決定日                   判決・決定
大飯原発3、4号機 福井地裁(2014年5月21日)  運転差し止め(判決)
高浜原発3、4号機 福井地裁(15年4月14日)    運転差し止め(仮処分)
川内原発1、2号機 鹿児島地裁(15年4月22日)   運転差し止め申請を却下(仮処分)
高浜原発3、4号機 大津地裁(16年3月9日)     運転差し止め(仮処分)
川内原発1、2号機 福岡高裁宮崎支部(16年4月6日) 運転差し止め申請の却下決定を維持(仮処分)
高浜原発3、4号機 大阪高裁(17年3月28日)    運転差し止め決定を取り消し(仮処分)
伊方原発3号機   広島地裁(17年3月30日)    運転差し止め申請を却下(仮処分)

(2017年3月31日朝刊掲載)

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