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社説・コラム

天風録 「日韓親善と通信使」

 10年前、1人の外交官が呉市の下蒲刈島を訪れた。駐韓大使の就任を間近に控えた東広島市出身の重家俊範さんだ。韓国との関係に思いを巡らすうち、知人に勧められる。江戸時代の朝鮮通信使の歴史に触れたらどうか―▲通信使は江戸への道すがら瀬戸内の島に立ち寄った。地元の歓待も受け、広島藩には豪勢な料理を振る舞われた。「互いの文化を尊重し、学ぼうとする良い時代の交流だった」と重家さんは大使館のサイトにつづった▲そんないい時代もあったのに、今は慰安婦少女像の扱いを巡って関係は冷え込んでいる。きのう日本政府は抗議の意も込めた大使一時帰国を3カ月ぶりに解いた。韓国側はどう出るだろう▲現地の世論は像の撤去には厳しく、来月の大統領選の行方も影響してくる。日本政府もボールを投げ返しただけで終わらせず、これまでの経緯を学んだ上で、尊重する努力が求められる▲異なる文化や伝統の理解は「われわれの人生を一層豊かなものにする」とも重家さんは記す。朝鮮通信使が再び親善の懸け橋になるかもしれない。関連資料をユネスコの世界記憶遺産に登録するよう、日韓は共同提案している。年内にも決まる可否を待とう。

(2017年4月5日朝刊掲載)

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