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社説・コラム

社説 ロシア地下鉄テロ 揺らぐ治安 原因を探れ

 プーチン政権に打撃を与えようとしたのだろう。ロシアの「北の首都」とも呼ばれるサンクトペテルブルクで3日、地下鉄テロが起きた。プーチン大統領の出身地で、しかも公務のために訪れている最中だった。

 走っている車両で起きた爆発の目撃者は「身の毛がよだつ地獄のようだった」と証言する。ドア枠はひしゃげ、駅には煙が立ち込めた。14人の命を奪い、約50人を負傷させた。国民が感じた恐怖や不安、悲しみは計り知れない。この蛮行を許すわけにはいかない。

 実行犯として特定されたのは、中央アジアのキルギス出身の22歳、ジャリロフ容疑者だ。自爆したとみられている。別の地下鉄駅でも爆発物が発見されている。捜査筋は、協力者がいたかどうかについても調べを進めているという。

 動機を含め事件の真相を、徹底的に解明してもらいたい。サンクトペテルブルクで専門学校に通い、父親が営む自動車修理業を手伝っていたジャリロフ容疑者がなぜ犯行に及んだのか。見過ごせないのは、今年2月に1カ月間キルギスを訪れた際、イスラム過激派にリクルートされた可能性があると伝えられることである。

 過激派組織「イスラム国」(IS)の関与があるのだろうか。ロシアは2015年9月、IS壊滅をうたってシリアで空爆を始め、ISは空爆への報復を呼び掛けてきたからだ。

 国民の多くがイスラム教徒のキルギスでは、民間人を巻き込んだシリア空爆に反発が広がる。さらに、ロシアや、キルギスを含む旧ソ連の中央アジア諸国から、ISの思想に同調して中東に渡った若者は数千人に及ぶといわれ、帰国した戦闘員の影響も懸念される。今回のテロを受け、ロシア政府は中央アジア出身者の取り締まりを強化するとみられる。

 プーチン氏はこれまで、テロとの戦いで名を上げ、「強いロシア」を演出してきた。ソ連崩壊後の1990年代から、チェチェン武装勢力の一部が過激化し、繰り返すテロに強硬姿勢で対抗。14年のソチ冬季五輪を前に対策を強化し、大規模なテロを抑えてきた。それだけに治安が揺らぐと、政権の威信に陰りが生じかねない。

 来年3月には大統領選を控え、ロシアは政治の季節に入っている。3年前にウクライナに侵攻し、クリミア半島の編入を断行したプーチン氏の国内の人気は高い。これまでは通算4度目の当選は確実とみられてきた。しかし、今回のテロをきっかけに、政権批判が噴出する可能性もある。

 クリミア編入後に欧米から経済制裁を科されて、ロシア経済は停滞している。国民の生活への不満は積み重なっている。そうした中、先月は政権の腐敗に抗議する集会がロシア各地であり、数万人が参加した。メドべージェフ首相への賄賂を告発する動画が、ネット世代の若者を中心に広がったためだ。

 今後、テロを口実に反体制派の締め付けやインターネットの統制強化が進むのではないかという観測は強い。しかし、何もかも力で抑えつけることができるとは思えない。テロの芽を摘むためにも、プーチン氏は内外の不満や反発にこそ、しっかり目を向けるべきである。

(2017年4月6日朝刊掲載)

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