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社説・コラム

社説 シリア空爆 非道な化学兵器 許せぬ

 内戦が続くシリア北西部で、化学兵器を用いたとみられる空爆があり、市民を巻き込んで多数の死傷者が出た。アサド政権軍の爆撃機による攻撃との見方が強まっている。

 空爆の現場では、呼吸困難や瞳孔が収縮する症状などが見られ、泡を吹いて倒れる子どももいたという。痛ましい限りだ。サリンなど猛毒の神経ガスが使われた可能性もある。

 化学兵器は、残虐性や非人道性を理由に、化学兵器禁止条約で使用や開発、保有が禁じられている。グテレス国連事務総長が「シリアで戦争犯罪が続いている」と強く非難したのも当然である。断じて許されない。

 アサド政権は使用と保有だけではなく、空爆への関与も否定している。国際社会として圧力をかけ、国連などによる徹底した調査で真相究明を急ぎたい。厳しく対応する必要があろう。

 ところが、5日にあった国連安全保障理事会の緊急会合では、「だれが攻撃を行ったか」を巡り、アサド政権の後ろ盾であるロシアと欧米側の主張が真っ向からぶつかり紛糾した。米英仏3カ国が共同で提案した非難決議案の採択も見送られた。

 ロシアは「政府軍は反体制派が保有していた化学兵器の倉庫を攻撃したにすぎない」と主張するが、国際社会が納得できる判断材料を示すべきだ。非人道的な兵器による「戦争犯罪」が国際的な制裁を免れるなら、再び悲劇が起きる恐れが残る。

 シリア内戦では、これまでも化学兵器による攻撃で多くの市民が犠牲になってきた。2013年8月には、ダマスカス郊外でサリンが使用され、子どもら数百人が犠牲になった。当時のオバマ米政権は軍事介入の構えを見せたが、結局見送った。その後、ロシアの提案などでシリアは禁止条約に加わり、保有する化学兵器の全廃に合意した。

 化学兵器禁止機関(OPCW)の管理下で回収・廃棄作業が行われ、翌14年には完了したはずだった。しかし、その後もアサド政権軍による使用が指摘され続け、OPCWも昨年、化学兵器の一種である塩素ガスを詰めた「たる爆弾」の使用を認める調査報告書をまとめた。

 シリア国内に未使用の化学兵器が残存しているか、新たに製造したことになる。国際社会を欺く行為ではないか。

 トランプ米大統領の対応も問われよう。先月下旬、欧米諸国が主張してきたアサド大統領の退陣を「優先課題としない」とし、オバマ前政権からの政策転換を表明したばかりだった。

 アサド政権を支援するロシアと協力し、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を優先するのが狙いとみられていた。

 トランプ大統領は今回の空爆を受けた声明で、アサド政権軍の化学兵器使用と断定、「多くの一線を越えた」と非難した。早くも戦略の練り直しを迫られた格好だが、中東外交に一貫性がないとの批判は免れまい。停滞するシリア和平協議と、どう向き合っていくかが試される。

 シリア内戦は6年続く。死者は32万人以上、周辺国へ逃れた難民も500万人を超え、第2次大戦終結後では最大の人道危機であることは間違いない。

 混乱の長期化の背景には、国際社会の分裂と対立がある。内戦そのものを終結させるため、結束すべき時である。

(2017年4月7日朝刊掲載)

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