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海自呉 高まる拠点性 護衛艦かが入港 市民団体 増強を懸念

 海上自衛隊最大級のヘリ搭載型護衛艦かが(1万9500トン)が4月上旬、母港となる呉市の海自隊呉基地に初めて入港した。新鋭艦の配備を「軍備増強」と捉え、懸念する声もある。国は今後も護衛艦や潜水艦の隻数を増やす計画で、呉基地が担う役割はさらに高まりそうだ。(浜村満大)

 「かがの配備は呉市民の誇り。市民を代表して心から歓迎する」。かがが入港した3日、小村和年市長は初代乗員をそう迎えた。

指揮中枢担う艦

 かがは横須賀基地を母港とする「いずも」と同型。前部から後部まで飛行甲板が広がる。「事実上の空母」と見なす国内外の専門家も多い。

 海上幕僚監部は「航空機の運用や作戦、指揮の中枢を担う艦」と位置付ける。日本周辺の警戒監視任務や災害時の洋上拠点などの役割を担う。

 船体の両側の開口部に遮蔽(しゃへい)板を備え、いずもよりレーダーに探知されにくい。ヘリ搭載型護衛艦「ひゅうが」型より全長が約50メートル長く、病床を8床から35床に増やすなど災害対応の機能を強化した。

 かが就役に伴い、呉基地が母港だった、ひゅうが型のいせ(1万3950トン)は佐世保基地に転籍した。この結果、ヘリ搭載型護衛艦は呉、横須賀、舞鶴、佐世保の4基地に配備された。全国をカバーする体制が整い、防衛能力が増す。

 近年は北朝鮮による核実験や弾道ミサイルの発射が相次ぐ。米国は今月に入り、原子力空母カール・ビンソンを朝鮮半島近海に向かわせて北朝鮮をけん制。同空母と海自隊の護衛艦による3月の共同訓練には、呉基地を母港とする護衛艦「さみだれ」や「さざなみ」などが参加した。

 呉基地は約6200人の隊員が在籍し、護衛艦や潜水艦など14種39隻が配備されている。種類、隻数ともに海自隊の基地で最多。2015年には全長が240メートルから420メートルに延びた浮桟橋Fバースの運用が始まり、大型の艦艇の係留が可能になった。

 呉基地では、艦艇の修理や燃料補給などの後方支援も担う。車や物資を運ぶ輸送艦や、潜水艦の乗員が訓練を積む練習潜水艦など国内で呉基地にしかない艦艇も多い。池太郎呉地方総監は「海軍からの歴史を継承し、呉に貯油所などが備わっているからこそできる任務だ」と力を込める。

「専守 枠超える」

 かがの配備に抗議した市民団体「ピースリンク広島・呉・岩国」は、「基地拡大」に懸念を強める。西岡由紀夫・呉世話人(61)は「呉基地は後方支援だけでなく、総合基地化している。自衛隊増強という力でなく、外交による対話こそが追求されるべきだ」と主張。「ペルシャ湾への派遣以降、海外派遣は増えるなど、専守防衛の枠を超えている」と訴える。

 13年末に閣議決定した「防衛計画の大綱」では、海自隊の護衛艦は7隻増の54隻、潜水艦は6隻増の22隻となる。大綱はおおむね10年間の指針。今後も艦艇の建造は続き、呉基地への配備も進むとみられる。

 かがの配備や岩国市の米海兵隊岩国基地への空母艦載機の移駐を踏まえ、自民党国防部会長の寺田稔衆院議員(広島5区)は「陸海空の基地がそろう瀬戸内海は自衛隊にとって重要な場所だ」と強調する。潜水艦の基地は全国で呉と横須賀の2カ所しかなく、呉基地の10隻は国内最多。「配備計画を考えると、呉が東洋一の潜水艦の基地になると言ってもいい」と明かす。

 海自隊呉地方総監を務めた金沢工業大虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授(59)は「世界的に単独で自国を守れる時代ではなくなった。呉基地の艦艇を含めソマリアの海賊対処活動などで貢献し、国際的な存在感を高める意義は、日本の安全保障にとって大きい」と説明。「呉基地は海自の作戦の根幹を支え、今後もその重要性は変わらない。船の修理など民間の力を借りながら後方支援をする呉基地は、特に市民の理解を得る努力が欠かせない」と話している。

護衛艦かが
 全長248メートル、幅38メートル。「いずも」型の2番艦として、3月22日に就役した。乗員は約470人。哨戒ヘリと救難輸送ヘリの計9機を搭載し、ヘリ5機が同時に発着できる。垂直離着陸輸送機オスプレイの使用も可能。3・5トンのトラック約50台を積め、同じヘリ搭載型護衛艦の「ひゅうが」型よりも輸送能力は向上した。他の艦船への燃料補給機能も備え、さまざまな任務の洋上拠点となる。建造費は約1200億円。

(2017年4月23日朝刊掲載)

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