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社説・コラム

社説 仏大統領選 大衆迎合では先見えぬ

 フランスの政治が大きく変わり、新たな時代を迎えようとしている。

 フランス大統領選は、親欧州連合(EU)の中道系で独立候補のマクロン前経済相と、反EUを掲げる極右、国民戦線(FN)のルペン党首が決選投票で対決することとなった。過半数を得票した候補がおらず、上位2人による決選投票が5月7日に行われる。

 1958年から共和党を中心とする中道・右派と、左派の社会党が政権を争ってきたが、この二大政党以外の候補者が大統領を争うのは初めてのことだ。

 異例といえる事態の背景には、長らく低迷する経済に有効な手だてを打てなかった既存の政治に対する国民の不満があるのは間違いない。

 社会党のオランド大統領は、選挙で公約に掲げた雇用拡大と景気回復にほとんど成果を上げることができなかった。国民の怒りを買い、不人気から再選出馬の断念に追い込まれた。二大政党以外の新しいリーダーを求める機運がかつてなく高まっているといえるだろう。

 とりわけ、ルペン氏の決選進出は、現状に不満を持つ国民に極右勢力を支持する傾向が根強いことを裏付けた。

 決選投票では今のところ、マクロン氏が優勢とみられており、フランスのEU離脱という最悪のシナリオが遠のいたようにも見える。しかし欧州統合への逆風がやんだわけではない。

 混戦を抜け出し、決選に進出した2人の主張は対極にある。

 オランド政権の閣僚を辞して独自に立候補したマクロン氏はEUの枠組みの再構築を進め、移民問題でも社会の多様性を重視し、合法的に受け入れる政策を訴えてきた。ただ、具体策があいまいとの指摘もある。

 懸念されるのは、ルペン氏の過激な公約である。フランス第一主義を掲げ、EU離脱を問う国民投票の実施や、自国通貨の旧フランの復活、移民の受け入れ制限など、欧州統合を後退させる政策を声高に主張する。

 トランプ米大統領もルペン氏の移民、テロ対策を称賛したと伝わる。社会の分断や亀裂を肯定する発言をフランスの国民がどう受け止めるのだろうか。

 一騎打ちは予断を許さない。失言やテレビ討論の優劣などで情勢が一変する場合もある。

 フランスでは2015年のパリ同時多発テロ以来、多くのテロが発生し、今も非常事態宣言が発令されたままだ。もし新たなテロが起きた場合、治安対策で強硬姿勢を打ち出すルペン氏に追い風になるかもしれない。

 フランスは、ドイツと共に欧州統合を支えてきたEUの中核だ。もしEU離脱へ動きだすようなことがあれば、欧州経済は混乱し、国際秩序も不安定化する。衝撃は英国のEU離脱の比でなく、日本経済への影響も避けられないだろう。

 昨年のオーストリア大統領選や、今年3月のオランダ下院選でも、反EUを唱えるポピュリスト(大衆迎合政治家)が台頭し、EUの将来を揺るがしかねない事態が相次ぐ。

 安易にEUを否定し、グローバリズムで生じた社会問題を移民の責任にするルペン氏の主張は危うい。さらに偏見や憎悪をあおるポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭につながるようなら、先は見えない。

(2017年4月25日朝刊掲載)

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