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社説・コラム

社説 北朝鮮情勢 外交努力さらに重ねよ

 北朝鮮が自国の行事に合わせて核実験やミサイル発射などの挑発を繰り返せば、これまでとは違って不測の事態が生じるのではないか―。朝鮮人民軍創建85年の節目を迎えたきのう、朝鮮半島を巡る緊張は一層高まっていたといえるだろう。

 米国のトランプ大統領が「力による平和」を掲げ、北朝鮮に「最大限の圧力」を加えようと軍事力を誇示しているからだ。米海軍の原子力空母カール・ビンソンは、朝鮮半島付近に向けて北上を続けている。きのうは巡航ミサイル原潜ミシガンを、韓国・釜山に入港させた。米軍最大級の潜水艦である。

 23、24日はフィリピン沖で、カール・ビンソンと日本の海上自衛隊による共同訓練をした。海自隊呉基地を母港とする「さみだれ」など2隻の護衛艦が参加。2015年改定の日米防衛協力指針(ガイドライン)に新たに盛り込まれた「柔軟抑止選択肢」(FDO)の一例という。外交とともに部隊展開などにより武力を示し、挑発行動を防ぐのが狙いだ。日米の一体感を北朝鮮はどう受け取るのだろう。

 この共同訓練は今後、日本海でも予定している。しかし軍事力の誇示が、偶発的な衝突の危険性を高めることを忘れてはなるまい。

 きのう北朝鮮は過去最大規模の砲撃訓練を行ったが、核実験やミサイル発射はしなかった。米国の軍事的圧力があったからとみる向きもあるだろうが、16日には弾道ミサイルを発射して失敗したばかりで、今後の出方は不透明だ。きのうの朝鮮労働党機関紙の社説では、「(米国などが)無謀な先制攻撃妄動を続けるなら、事前通告なしに懲罰の先制攻撃を加えるだろう」と威嚇している。

 脅し合いがエスカレートして武力行使に至ればどうなるか。日本政府は、北朝鮮の弾道ミサイルが日本に落下した場合の避難方法などを周知するよう、自治体などに呼び掛けている。

 しかし、日本や韓国で多くの市民が犠牲になる悪夢のシナリオは何としても避けたい。今こそ、さらなる外交努力を重ねなければならない。

 きのうは東京で北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議の日米韓首席代表の会合があった。北朝鮮が経済的に依存する中国に「責任ある対応」を働き掛ける方針については、もちろん異論はない。だが「北朝鮮に対話の用意があるとは全く思わない」という米国の主張に、どれほどの根拠があるのだろうか。

 北朝鮮は今月開いた最高人民会議で、外交委員会を19年ぶりに復活させている。大統領選のさなかにある韓国の新政権発足後をにらんでなのか、韓国や米国、日本との対話を探っているとの見方もある。

 拉致問題で北朝鮮と非公式の外交ルートがある日本は、北朝鮮に国際社会のメッセージを的確に伝え、暴走せぬよう説得する役割がある。米国側は否定的だが、6カ国協議の再開という選択肢を捨てるべきではない。

 安倍晋三首相はあすからロシアを訪問し、プーチン大統領と会談する。シリア問題でロシアと米国の関係が悪化する中、プーチン氏に朝鮮半島の非核化に向けた北朝鮮包囲網の一員となるよう訴えてもらいたい。東アジアの平和を守るため、日本の外交手腕が問われている。

(2017年4月26日朝刊掲載)

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