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社説・コラム

社説 原爆資料館の新展示 次代への発信力強めよ

 改修が続く広島市の原爆資料館できのう東館が再オープンした。1994年に増設されて以来の全面リニューアルである。

 最新の映像技術などを駆使し、原爆が及ぼす影響などを視覚に訴える構成になっている。若い世代や海外からの来館者にとっては、核兵器廃絶がなぜ必要なのか、さらに理解しやすくなったのではないか。

 生まれ変わった東館は、「原爆についての幅広い知識を深く知る施設」との位置付けだ。入ってまず目にする、直径5メートルの広島市街地の模型「ホワイトパノラマ」は目玉の一つである。

 爆心地から2・5キロ圏内に1分半のCG動画が投影され、被爆前後が再現される。一発の原爆が一瞬でどれだけのものを破壊したか、一目で分かる。これまでの模型からは感じ得ない迫力と衝撃があるのは確かだ。

 ただ、CG映像は米軍が撮影した画像を基にしているため、映し出されるのは原爆を落とした米国側の目線だともいえる。違和感を覚える人もいよう。

 パノラマに広がるきのこ雲の下では多くの人々が焼かれ、放射線を浴び、「生き地獄」が広がっていた―。来年夏の全館オープン後、この導入部分に続く予定の本館展示は、原爆が一人一人の人間にもたらした悲惨さを、しっかり伝える役割を果たさねばならない。

 新展示はほかに、広島の歩みや今なお人類の脅威であり続ける核兵器の危険性など原爆に関する知識を、再整理して紹介している。映像や写真を組み合わせた壁面の説明パネルに加え、タッチパネル式の情報端末「メディアテーブル」に直接触れ、自分がより詳しく知りたい情報にアクセスできる。

 きのう早速修学旅行生らが真剣に画面を触る姿が見られた。自ら知ろうと触れ、調べることで、壁面の解説にただ目を通すのとは違う効果も得られよう。

 一方で、滞在時間が限られた来館者に、原爆被害の実情を少しでも多く理解してもらう工夫が求められる。視覚的効果や最新技術の珍しさで表面的なアクセスに終わらぬよう、資料館は事前のサポートや、理解の手助けをする案内役の活用なども今後考えていくべきである。

 東館と入れ替わりで本館が工事のため閉鎖となった。被爆者の遺品などの一部資料は、東館1階に新たに設けた企画展示室に当面は移されている。

 閉鎖に伴い、論議を呼んだ被爆再現人形は撤去され、常設では展示されなくなる。本館の新たな展示は、被爆者の遺品など現物資料が軸になる。一人一人の痛みや悲しみを「追体験できる場」にするという。東館の新展示が発する「知」を補完する役割を果たす必要がある。

 資料館には昨年度、過去最多の約174万人が訪れた。米大統領として初めて来館したオバマ氏の効果もあり、外国人は4年続けて最多を更新している。資料館に足を運び、心を震わせた海外の指導者も多い。初めて被爆地を訪れた人にとって、意味ある場所なのは間違いない。

 核保有国のリーダーが廃絶に背を向け、冷戦終結後最も核を巡る緊張が高まっている。そんな今こそ、世代や国境を超えて多くの人がきのこ雲の下で何が起きたか知るべきだ。その要所である資料館は、発信力を一層高める努力を重ねてほしい。

(2017年4月27日朝刊掲載)

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