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連載・特集

宏池会60年 外交政策 核廃絶 試される実行力

 岸田文雄外相(広島1区)が率いる自民党の派閥・宏池会(岸田派)はことし、発足60周年の節目を迎えた。最も古い派閥の一つで、外交面ではハト派の政策集団とされてきた。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、外交政策でどんな展望を示し、安倍晋三首相の後継「ポスト安倍」にどう備えるのか。中国地方選出の所属国会議員たちの声を踏まえて展望する。(野崎建一郎)

 「宏池会は、厳しい国際環境の中にあって『平和を求める外交力』を養う努力を積み重ねてきました」。岸田氏は、19日に東京都内であった宏池会創立60周年の記念パーティーでこうあいさつした。

国際協調に軸足

 60周年記念事業の責任者を務める上川陽子氏(静岡1区)は「宏池会が誇りを持って外交政策に取り組んできたことを表現した言葉だ」と、あえて外交政策に触れた理由を解説する。

 宏池会は、防衛力強化を急がない「軽武装」を志向する穏健路線ハト派の派閥だとされた。しかしいま、宏池会の集まりでハト派という言葉はほとんど語られない。溝手顕正氏(参院広島)は「核兵器開発を進める北朝鮮や海洋進出を強める中国との外交、防衛政策は限られる。今は党内をハト派、タカ派に色分けするのは難しい」とみる。

 では、現在の政治状況にふさわしい宏池会の外交政策とは何なのか―。ハト派を自認していた故宮沢喜一元首相をおじに持つ宮沢洋一氏(参院広島)は、「宏池会の伝統は、援助や経済協定など非軍事に高いウエートを置くことに特徴がある」と、その方向性を磨くことを提案する。宏池会座長の林芳正氏(参院山口)も「国際協調に軸足を置きつつ、防衛も怠らないというのが基本路線になるのではないか」とみる。

役割発揮できず

 この国際協調路線はしかし、核兵器禁止条約の制定交渉を巡る動きでは役割を発揮できていない。岸田氏が外相を担う日本政府は、多国間交渉の開始に反対した上、交渉会議に参加しなかった。日本が米国の「核の傘」の下にいることが要因の一つとみられる。

 宏池会名誉会長を務める古賀誠氏は「被爆国の日本は、世界から核兵器をなくすことに何の恐れも持ってはいけない。岸田氏は閣内でその立場で言うべきことを言ってほしい」と注文する。自民党の「被爆者救済を進める議員連盟」の代表世話人を務める寺田稔氏(広島5区)も「まずは交渉会議に参加してほしかった」と残念がった。

 60周年記念事業の一つとして宏池会は、派閥の政策ビジョンを練り始めた。広報担当の小林史明氏(広島7区)はインターネットを使った情報発信を強めていく考えでいる。ハト派の流れをくむ外交政策をどう打ち出し、進めていくのか。核兵器廃絶へ向け、派閥がリーダーシップを発揮できるのか。その指針と実行力が問われている。

宏池会
 1957年6月、竹原市出身の池田勇人元首相を中心に結成された自民党の派閥。これまでに、池田氏、大平正芳氏、鈴木善幸氏、宮沢喜一氏の4人の首相を輩出している。党幹事長だった加藤紘一会長が2000年、当時の森喜朗首相を批判した「加藤の乱」をきっかけに、批判派と賛同派に分裂した。党総裁選を巡る派閥内闘争による離脱などもあり、現在は宏池会(岸田派)と為公会(麻生派)、有隣会(谷垣グループ)の三つに分かれている。

(2017年4月28日朝刊掲載)

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