社説・コラム

アニメ「無念」のフランス上映 福本英伸 フクシマの物語 関心高く

「現実」伝える大切さ

 東日本大震災と福島第1原発事故を題材にしたアニメーション「無念」を手に、3月中旬から下旬にかけ、フランスの5都市で上映会を開いた。現地の市民に招かれて、福島の被災者4人と、本作を制作した「まち物語制作委員会」メンバーらの計7人で渡航した。

 震災からはや6年余り。日本にいてさえ、その記憶や教訓の「風化」を感じずにはいられない。遠いフランスで果たして観客が集まってくれるのか不安だったが、取り越し苦労だった。今後の活動への励ましを得る旅となった。

 最初の訪問地となったフランス南東部のリヨン。当日は、脱原発団体の集会が別の会場で開かれていた。集会と上映会の時間が重なったため、とりわけ集客に気をもんだが、開会30分前には会場のリヨン図書館会議室の席はどんどん埋まり、満席となった。

 このアニメは、被災地を取材した紙芝居を基に制作した。がれきの下に人を確認しながらも原発事故の影響で避難せざるを得なかった福島県浪江町の消防団員の無念や、風評被害への憤りなどを描く。脱原発の運動家はむしろ少ない会場になったはずだが、観客の目は真剣そのもので、目頭を押さえる人もいた。

 上映終了と同時に意見交換会が始まる。フランスでは、アンケートを取らない代わりに自由に意見を出す場を設けるのが一般的という。次々と手が上がる。「食物への影響は?」「政府に対する思いは?」「復興の状況は?」…。矢継ぎ早の質問に、福島の被災者は一つ一つ丁寧に答えを返していった。

 その後、上映会はヴァランス、グルノーブル、アンベリュー、パリと巡った。いずれの会場も満席で、多くの言葉をいただいた。中には「国は真実を伝えていると思うか?」といった、政府の原発政策に関する手厳しい意見も飛び出した。フランスも原発大国として知られている。

 しかし、上映会の冒頭に「福島の被災者が見たありのままの現実を伝える場」である旨を伝えており、実際の被災者を前に、原発の推進派と反対派がぶつかり合うようなことはなかった。それでかえって、議論は深まったように感じられた。

 私も、さまざまな被爆者や被爆2世、3世と接してきたヒロシマ人として「放射能の影響には分からないことが多いことを念頭に」と、留意を促した。分からないゆえの難しさが社会に何をもたらすかを、被災者から学んでほしいとの思いだった。

 分からないから一方は「恐ろしい」と言い、一方は「大丈夫」と言う。そこから家族や地域が分断される。大切なのは、決めつけに陥ることなく、しかし率直に現実を伝えていくことだ。そんな思いから、現実を知る福島の人に現実を伝えてもらおうと始めたのが「東北まち物語紙芝居化100本プロジェクト」であり、アニメ制作にも至った「まち物語制作委員会」の活動である。

 その方向性に間違いはないと確信する旅となった。これからもヒロシマ人として創作を続けようと、決意を新たにしている。(紙芝居作家、まち物語制作委員会代表=広島市)

(2017年5月19日朝刊掲載)
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