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草案に「被爆者」広島歓迎 核禁条約「保有国巻き込んで」

 公表された「核兵器禁止条約」の草案に「被爆者」という言葉が盛り込まれ、被爆地で23日、歓迎の声が広がった。核兵器の開発や使用を禁止する内容への評価も上々。今後、条約交渉に不参加の核保有国や日本政府を巻き込む道筋づくりで、議論の深まりを期待する声が上がった。(野田華奈子、水川恭輔)

 広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之副理事長(75)は「被爆者に対して思いやりのある表現が入り、うれしい。今後の活動に勇気をもらった」と喜んだ。来月、米ニューヨークの国連本部である第2回の条約制定交渉会議を傍聴する。「締結が見えてくるが、世界情勢は混迷。しっかり議論して詰めてほしい」と期待する。

 広島市の松井一実市長は公務の会議が開かれた南区のホテルで急きょ記者団の取材に応じ、被爆者への言及を「被爆して生き延びた人と英訳で書く以上の意味を一語に込めている」と推し量った。条文に関しても「核兵器の使用や開発を禁止する必要性が分かる」と評価してみせた。

 「『被爆者』は二度と人類に核が使われてはならないという象徴。被爆者の地道な訴えが世論を動かした」。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(72)は条約草案の重みをかみ締める。その分、制定交渉に参加していない被爆国政府に矛先が向く。「なぜ被爆者の立場に立てないのか。世界の恥だ」

 日本被団協も声明で草案を「核兵器のない世界」への大きな一歩と歓迎し、核保有国や同盟国に交渉への積極参加を求めた。

 3月の条約制定交渉会議を傍聴した市立大広島平和研究所の福井康人准教授(軍縮国際法)は「核使用の多岐にわたる影響にも触れ、議論の出発点としてよくできている。核拡散防止条約(NPT)など先行条約との整合性も押さえてある」と分析する。

 その上で、反発する核保有国を取り込む方策を課題視。「NPTを補強する位置付けをより明確にし、NPT『脱退』を宣言している北朝鮮の核・ミサイル問題をはじめとした安全保障問題に寄与する、と示せるかどうかが重要」と投げ掛ける。

(2017年5月24日朝刊掲載)

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