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社説・コラム

社説 米国のパリ協定離脱 内向きの理屈許されぬ

 世界が失望に包まれた。トランプ米大統領がきのう、地球温暖化対策の新たな国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を表明した。190以上の国や地域が参加し、ようやく動きだした取り組みの実効性や信頼性を損ないかねない。地球の未来より、「米国第一主義」に凝り固まる姿勢は到底受け入れがたい。

 トランプ氏は演説で、協定を「他国に利益をもたらし米国の労働者に不利益」と決め付け、「協定にとどまれば巨額のコストが生じる」と内向きの理屈を連ねた。全くあきれてしまう。

 確かに協定離脱は大統領選の公約だった。寂れた産炭地のてこ入れに、石炭火力の規制緩和を示してきた。有権者への約束は重い。ただ、温室効果ガス排出量で世界2位の米国が、国際社会で果たすべき責任を放棄していいものではない。

 各国首脳が遺憾の意を示す中、耳目を集めたのはフランスのマクロン大統領の演説だろう。「われわれの地球を再び偉大に」と国際社会に協定順守を呼び掛けた。トランプ氏がきのうの演説でも口にした、決まり文句の「米国を再び偉大にする」を当てこすった発言だ。

 昨年11月に発効した協定は、産業革命以来の気温上昇を2度未満にするのが目標だ。このハードルを越えるには国際協調が欠かせない。大多数の国や地域が独善を捨てて参加したことで「歴史的」と呼ばれる協定を、米国の身勝手で不調に終わらせるわけにはいかない。

 協定の規定によって、米国の正式離脱は早くて2020年以降となる。既に米政権は排出規制の撤廃や国際基金への拠出中止を打ち出しており、翻意を促すのは容易ではなかろう。トランプ氏も再交渉をちらつかせる前に、頭を冷やして、足元を見つめ直すべきではないか。

 パリ協定より前の「京都議定書」から米国が離脱を決めた01年当時とは状況が変わった。天然ガスや再生可能エネルギーの需要が拡大し、石炭火力が入り込む余地はさほどない。カリフォルニアなどの州政府が独自に大幅な排出削減に取り組む方針を示しているのも、逆らいがたい時代の流れといえよう。

 外交においても孤立を深めるのは米国にとって得策ではあるまい。先月の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)でトランプ評は芳しくなかった。もはや信頼に足る世界のリーダーと見なさない風潮が広がれば、マイナス影響の方が大きい。

 国際協調の真価も問われる。米国などからの経済援助を前提に協定に参加した発展途上国をどうサポートするか。まず先進国が協定を尊重し、取り組みを加速していく必要がある。日本が先頭に立たねばならない。

 協定に基づき国内排出量を30年度に13年度比で4分の1程度削減する目標を立てた。長期的には8割減まで持っていくことも閣議決定した。産業界の一部に「国際状況も不確実なので、対策強化は慎重であるべきだ」との声があるが、米国離脱は行動に移さない理由にならない。ましてや協定にかこつけた、なし崩し的な原発回帰は論外だ。

 再生可能エネルギーの普及に力を入れるべきだ。「脱炭素社会」実現に向けた動きをビジネスチャンスだと見る企業は着実に増えており、米国が協定復帰する呼び水にもなろう。

(2017年6月3日朝刊掲載)

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