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社説・コラム

天風録 「いち抜けた」

 ヒマラヤ山脈ではこの半世紀、解けた万年雪で氷河湖が増えているという。むろん地球温暖化のせいである。ネパールの氷河湖は「時限爆弾」と呼ばれ、決壊すれば下流のインドやパキスタンの町はひとたまりもない▲その引き金に指を掛けた一員という立場をお忘れなのか。米国の第45代大統領が、パリ協定から「いち抜けた」とのたまった。公約の遂行に拍手を送る国民もいるらしいが、海外の桟敷席からは総すかんを食っている▲温暖化対策に後ろ向きな国として国際会議のたび、「化石賞」を授かってきたわが政府も珍しく色をなした。環境相は「英知に背を向けた」と。今度ばかりは、まかりならんということだろう▲はびこるクラスター弾に手を貸す不名誉リストが先月、公になった。空中で子爆弾をばらまき、巻き添えの絶えぬ非道の兵器である。製造を続ける企業に金を融通し、投資の種にする金融機関を市民団体が調べ上げた。残念ながら日本の4社も並ぶ▲温暖化による「時限爆弾」は、南洋の島や北極でも懸念されている。米国が新たに名乗りを上げた不名誉リストに、続く国が現れるのだろうか。後の世に範を示さない、世紀の笑いものリストに。

(2017年6月3日朝刊掲載)

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