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社説・コラム

社説 ヘイト対策法1年 根絶へ取り組み広げよ

 在日外国人を攻撃、排除する差別的な言動の解消を目指す、ヘイトスピーチ対策法が施行され、きのうで1年になった。

 ヘイトスピーチを伴う街頭活動(ヘイトデモ)が施行前の半分近くに減るなど、効果は表れている。この一歩を生かして、差別そのものがなくなるよう取り組みにさらに力を入れたい。

 ヘイトデモが激しかった川崎市や大阪市に住む在日コリアンからは評価する声が聞かれる。かつては「死ね」「殺す」「出て行け」「ゴキブリ」など脅迫的な言葉を連呼する街頭活動がほぼ野放し状態だった。自分たちの存在を否定するような言葉を耳にして悔しさや怒り、孤立感に加え、身の危険すら感じたこともあったという。

 この法律ができて、市が公園の使用許可を出さなかったり、裁判所がデモの差し止めを求める仮処分を認めたりしている。警察庁によると、施行から今年4月までに確認したヘイトデモは35件で、前年同期の61件から4割以上も減った。法律が効いているのは間違いないだろう。

 課題もある。まずこの法律は特定の国出身者に対する憎しみや敵意をあおる言葉などを差別的な言動だと定義して、「許されない」と明記しているものの、禁止規定や罰則は設けていないことだ。

 憲法で保障する表現の自由を侵害する恐れがあるとして、避けたのだろうか。だがヘイトスピーチを根絶するには、欧米を参考にして罰則など厳しい対応を検討することが不可欠だ。

 英国は人種を理由に憎悪をかきたてる言葉を用いた場合などを犯罪とし、刑罰を科す法律を半世紀以上も前に制定した。ユダヤ人大虐殺の歴史を背負うドイツは、東西統一前から「特定の人間の尊厳を攻撃する行為」を犯罪と定めている。

 表現の自由を重視する米国でも、ヘイトクライム(憎悪による犯罪)と立証されれば通常より重い罰則を科している。日本も、基本的人権を踏みにじりかねないヘイトスピーチは、法律で禁じるよう踏み込むべきではないか。

 また、ヘイトデモは確かに減ったものの、インターネット上では依然、ヘイトスピーチがはびこっている。法務省によると部落差別なども含め、ネット上の人権侵害は昨年1909件あった。2001年に調査を始めて以来最悪となった。放置はできない。とりわけ多くの人が見るニュースのコメント欄やツイッターなどは影響が大きい。対応が急がれる。

 大阪市の積極姿勢を参考にしたい。法律に先立ち、有識者でつくる審査会の設置などを盛り込んだ独自の条例を定めた。審査会がネット上の動画3件をヘイトスピーチだと判断したのを受け、市はサイト運営者に要請し、動画を削除させている。学べる点は多いはずだ。

 中国地方でも、ヘイトデモは12年4月から15年9月までに56回あった。うち9割近い49回は広島県だった。決して人ごとだとはいえない。

 在日外国人に対してだけではなく、あらゆる差別を許さない取り組みをさらに広げていく必要がある。この法律は、自治体にも相談体制の整備や教育、啓発活動を実施するように求めている。地域を挙げて、差別を根絶しなければならない。

(2017年6月4日朝刊掲載)

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