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社説・コラム

公民権運動 壮絶な記憶 米ペンシルベニア州立大で研究 ウッドラフ教授に聞く

差別や暴力被害 証言大切さ 広島と同じ

 米ペンシルベニア州立大歴史学部のナン・エリザベス・ウッドラフ教授が、広島市立大広島平和研究所の研究フォーラム参加のため被爆地を訪れた。1950~60年代の米国南部の州で公民権運動に立ち上がったアフリカ系住民に対する壮絶な人種差別の歴史がテーマ。当事者が負った心の傷(トラウマ)の聞き取りを通じて、米国社会の「暴力性」を浮き彫りにする研究について聞いた。(金崎由美)

  ―全米の公民権運動の中でも、ミシシッピ州北部の小さな町グレナダのケースを研究していますね。
 最高裁が54年に公立学校の人種隔離を違憲とし、64年には公民権法が成立したが、現実に差別は続いた。66年夏、グレナダで差別撤廃運動が組織された。子どもたちは映画館などの利用差別をなくすよう求め、大人は投票権の平等と職業選択の自由を訴えた。数百人が約4カ月間、非暴力デモを続けた。

 そんな彼らを鉄パイプやれんがを手にした白人暴徒が執拗に襲撃した。子どもにも容赦なく…。白人優越主義結社の「クー・クラックス・クラン(KKK)」、若者や女性、警察も加担した。白人教師は校舎から生徒を閉め出し、暴徒の前にさらした。衝撃的だが、米建国から続く人種差別のほんの一例でもある。

  ―人種的な憎悪と暴力は現在も根強い問題です。
 奴隷制も公民権運動における暴力も、誰も責任を問われることなく法律や制度だけ変更された。社会、経済、政治の根幹に白人至上主義が温存されている。

  ―グレナダの被害者は進んで体験を語りましたか。
 これまで100人以上の証言に耳を傾けてきたが、簡単ではない。性的暴行の被害者もいる。子どもは母親を気遣い、話題を封印する。66年を機に大勢の人たちが町を去ってちりぢりになった一方、恐ろしい加害者と隣り合わせで住み続ける人もいる。黒人社会も地理的、階級的、心理的に複雑化し、体験の共有は進まなかった。

 ただ、みんなで歴史を直視すべきだ、と語ってくれる人はいる。粘り強く信頼関係をつくると、泣きながら口を開く人もいる。トラウマを伴う記憶を語ることは本人と家族にとって治療的な効果もあり得る。

  ―広島・長崎の被爆者から証言を聴くこととの共通点もありますね。
 マーチン・ルーサー・キング牧師のような、不屈の「ヒーロー」は一握りだ。ここ広島でも、大多数は無言で生きているのではないか。しかも高齢化が進んでいる。いま、語られてこなかった体験を掘り起こさないと、歴史を失うことになる。

(2017年6月5日朝刊掲載)

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