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変わる岩国基地 迫る判断 <上> 拭えぬ不安

 米海兵隊岩国基地(岩国市)への空母艦載機移転計画を巡り、福田良彦市長は開会中の市議会最終日の23日にも、受け入れの是非を表明する。その判断材料とする市民の声には、移転後の暮らしへの不安と期待が複雑に入り交じる。多様な意見にどう向き合い、接点をどう見いだすのか―。トップの決断が迫る中、課題を追う。

騒音エリア 一部で拡大

 「艦載機の移転後、どんな騒音被害が出るのか想像もできない。爆音に悩まされながら毎日生活している実態を現地で確認していただきたい」。5月21日、岩国市由宇町であった移転計画を巡る住民説明会。同町神東の岩田政弘さん(80)は市幹部に詰め寄った。

「ひたすら我慢」

 岩田さんは城ケ崎と呼ばれる20戸ほどの集落に暮らす。海を望むのどかな地域だが、米軍機が上空を通るたび、爆音がテレビの音や家族の会話をかき消す。「基地滑走路の沖合移設もここでは関係ない。みんな我慢し続けている」

 市には、艦載機受け入れの前提条件に掲げる基本スタンスがある。その一つが「基地周辺住民の生活環境が現状より悪化することは容認できない」で、市はクリアしたとの見解を示す。

 市が基本スタンスで言う「現状」とは、日米が移転計画に合意し滑走路沖合移設前だった2006年当時を指す。艦載機が来ても住宅防音工事の助成区域(第一種区域)は当時の約1600ヘクタールから約650ヘクタールに縮小する予測で、全体として悪化しないという整理だ。

 ただ、神東地区のように当時より騒音エリアの拡大が予測される地域はある。さらに移転で米軍機が倍増すれば、まさに現在の状況よりも確実に騒音は増す。「子どもや孫の代まで騒音被害に悩ませたくない」。岩田さんの訴えは切実だ。

 治安面の課題も残る。移転後の米軍人や軍属、家族の総数は1万人を超え、市人口の約1割に匹敵する。事件事故の増加を心配する声がある中、市が国に要望した安心安全対策のうち「基地外居住者の居所の明確化」「日米地位協定の見直し」は未達成のままだ。

地位協定に不満

 米側は13年3月末を最後に、基地外に住む米軍人たちの人数を公表しなくなった。テロの恐れなどが理由という。市は過去のデータから移転後の基地外居住者は2千人前後と推測。一方で、市中心部の愛宕山地区に7月末に完成する米軍家族住宅262戸の住人はこの数字に含まれない。

 なぜか。米軍提供区域にある住宅は「基地外」と扱われないからだ。移転後の実態把握は今以上に難しくなる可能性もある。

 「いくら安心安全対策と言っても、最後は地位協定でほごにされる」。住民説明会ではそんな声も聞かれた。10年9月、市内で道路を横断中の男性が軍属女性の車にはねられ死亡。地位協定を理由に女性は不起訴処分となった。不平等な地位協定が米軍人たちの事件事故の背景にあるとの主張は根強い。

 市は、基地や関連施設を抱える15都道府県による渉外知事会などを通じて地位協定の見直しを求めているが、抜本的な解決に至っていない。市民団体「愛宕山を守る会」の岡村寛世話人代表(73)は強調する。「市民の安心安全をどう守るのか、市は責任ある対応を示すべきだ」(松本恭治)

米空母艦載機移転計画
 在日米軍再編で、米海軍厚木基地(神奈川県)から艦載機61機が米海兵隊岩国基地に移転する計画。国が1月に公表したスケジュールによると、早ければ7月にも配備が始まり、来年5月ごろまでに完了する予定。移転に伴い岩国基地の配備機数は倍増の約120機となり、軍人や軍属などは1万人を超える見込み。

(2017年6月6日朝刊掲載)

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