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変わる岩国基地 迫る判断 <下> 振興への期待

工事発注増 地元に潤い

 米海兵隊岩国基地(岩国市)の西約3キロに広がる愛宕山地区。つち音が響く一角に、約8千人の観客を収容できる野球場の外観が姿を現している。野球場建設は空母艦載機の移転を見据えた「準備行為」とされ、7月末の完成に向けて急ピッチで工事が進む。完成後は国が米軍に提供し、市民も利用できるという。

施設次々と整備

 ソフトボール場にバスケットボール場、陸上競技場…。野球場のほか、一帯では来年2月末にかけて各種スポーツ施設が次々と整備される。「岩国には運動施設が足りない。他市にない素晴らしいエリアに」。市体育協会の菊川尊樹会長(62)は心待ちにする。広島東洋カープの2軍戦や、日米の親子交流など活用案は尽きない。

 地元経済界も艦載機移転を肯定的に捉える。5月24日にあった岩国商工会議所の定例記者会見。長野寿会頭は移転について「(福田良彦市長が)容認判断を示すことに期待する」と表明した。

 背景には、米軍再編に絡む工事に関する地元の受注実績などがある。市や国によると、2006~16年度に基地内外の住宅建設やインフラ整備などは919件、4733億円(契約ベース)。うち市内に本社を置く事業者は262件、1033億円を請け負い、地域経済は一定に潤った。

 市が国に求めた安心安全対策では「朗報」もあった。国は5月12日、家屋全体向けの住宅防音工事の対象区域を「うるささ指数」(W値)85以上から80以上へ広げることを市に通知。新たに対象となる区域には約4200戸あり、地元への工事発注も見込まれる。同月18日に岩国商議所であった岩国住宅防音協議会では、加盟する建設業者から歓迎の声が上がった。

 小中学校の給食費無償化や防犯灯・防犯カメラの設置、国道188号岩国南バイパスの南伸…。5月の住民説明会では、国から矢継ぎ早に示された地域振興策などを評価する市民の声も目立った。福田市長自身も「(国との協議に)一定の成果はあった」とし、「基地があるメリット」に目を向ける必要性を訴える。

財源依存懸念も

 ただ市民の間には、基地関連の財源依存を強める市の現状に対し、「安心安全と引き換えに補助金で街づくりを進めている」との批判もある。愛宕山地区の運動施設の利用についても、予約に関して市は、①日米交流行事②米軍か市の公の行事③一般利用―の順で受け付ける方向で国や米軍と調整中とするが、市の言う「使いやすい施設」の全体像は見えない。「基地との共存」がもたらす負担への懸念や反発は根強い。

 福田市長は「さまざまな意見がある中で、現実的な接点、着地点を見いだす必要がある」とする。開会中の市議会定例会で自らの考え方をどう語り、移転の是非を判断するのか。市民は注目している。(馬上稔子、藤田智)

(2017年6月7日朝刊掲載)

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