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社説・コラム

社説 日印原子力協定 被爆国として許されぬ

 インドへの原発輸出に道を開く日印原子力協定の締結と発効が間近となっている。

 承認案を衆院は既に可決している。きのう参院の委員会で可決され、きょうにも本会議で承認される見込みだ。だが核を巡る世界情勢に大きく影響する協定である。このまま認めるのは危険だ。

 インドは核拡散防止条約(NPT)に未加盟であり、包括的核実験禁止条約(CTBT)にも署名していない。今後、再び核実験に踏み切ることも考えられる。その場合は協定を停止できるのか。臨界前核実験をした場合にはどう対応するのか。

 懸念の声に対し、政府はあいまいな答弁に終始して原発輸出を急ぎたいようだ。なぜ核拡散に手を貸す恐れに目をつぶるのだろう。

 協定は昨年11月、来日したインドのモディ首相と安倍晋三首相が署名した。日本から核物質や原子力関連技術を移転できるようにする内容だ。

 インドでは20基余りの原発が稼働する。電力需要も高く、原発の発電量を2032年までに現在の約10倍にするという。

 福島第1原発の事故以来、冷え込む原発市場にあって注目されている。政府には協定で日本メーカーを後押しする思惑もあるのだろうが、経営危機にある東芝などに大型輸出は見込めないのが現実という。政府の前のめり姿勢は解せない。

 インド国内でも原発への不安や懐疑が広がり、抗議・反対運動が各地で起きている。道義的にも無視してはならない。

 さらにインドは隣国パキスタンと領土などを巡り、長年敵対関係にあり、核軍拡競争を繰り広げてきた。原発の技術が軍事転用される恐れがある。

 協定の承認案は先月16日に、衆院本会議で可決され、30日から参院の外交防衛委員会に審議の舞台を移していた。

 論戦で核拡散の懸念を問われた岸田文雄外相は「協定でインドをNPTに実質的に取り込むことになる」と答えた。

 協定では核物質や技術を核爆発装置開発には使わないほか、国際原子力機関(IAEA)の査察を受けることを決めてはいる。だが十分とは言えまい。

 「むしろインドの核保有国としての立場を強める」と、野党が反発するのも無理はない。

 インドが核実験を再開した場合、岸田外相は「協定を終了する」と強調した。だがそれは関連文書で取り交わした内容で、協定本体に記されていない。原発を止めさせられる確証はない。核爆発を伴わない臨界前実験には「適切に対応」として、「停止」を明言しなかった。

 協定は、使用済み核燃料の再処理を認めている。再処理で出るプルトニウムはIAEAの査察下にあると政府は言うが、核兵器開発を拡大させかねない。

 仮に協定を停止した際、使用済み核燃料などは国費で回収するという。その場合、プルトニウムを日本へ危険を冒して移送し、管理することになる。既に約48トンものプルトニウムをため込んでいる日本への風当たりは一層増すはずだ。

 問題点を多く残している協定である。厳格に核開発を縛る付帯決議もなしに、結ぶことなどもっての外である。核廃絶の訴えにも反している。被爆国として締結してはならない。

(2017年6月7日朝刊掲載)

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