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社説・コラム

天風録 「ヒューマンエラー」

 この世には「安全」などない―。自治医科大で医療安全学を教える河野龍太郎教授は、その認識が安全に近づく出発点と考えているようだ。リスクは決してゼロにならない。だから絶対の安全はない。著書にそう記す▲中でもなくせないのが「ヒューマンエラー」。航空業界や原子力発電プラントのリスク管理にも携わったプロは断言する。疲れや慣れから人間は必ずミスをする、と。それでも重大事故につながらないよう、幾重にも対策を打つ。安全の勘所だろう▲その河野教授が「優等生」とみる原子力業界で過去最悪の内部被曝(ひばく)事故が起きた。がくぜんとする。茨城にある日本原子力研究開発機構の研究施設。作業員がプルトニウムを吸い込み、1人の肺で2万2千ベクレルが計測された▲「プルトニウムに慣れ過ぎてしまったのではないか」と原子力規制委員長の苦言も聞こえてくる。とはいえ作業員に慣れがあったとしても、被曝防止策を二重三重に張り巡らせておくのが筋だろう。組織自体が緩んでいたとすれば、問題の根は深い▲いまだ手に負えない物質を、この世で利用しようとしてきたこと自体が「人間のエラー」なのか。取り返しが付くのか、付かないのか。

(2017年6月9日朝刊掲載)

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